将棋連盟会長・佐藤康光九段「なお進化し、決着までの変化は無限」

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佐藤康光九段(日本将棋連盟会長)

 将棋界が盛り上がっている。現在、名人戦、叡王戦で激闘が繰り広げられ、6月から始まる最強棋士たちの舞台、順位戦A級リーグにはついに藤井聡太竜王(五冠)が登場する。その将棋界を牽引しているのが佐藤康光会長だ。連盟会長の要職を務める一方で、50代でただ1人、A級リーグに身を置く。タイトル通算13期のレジェンドに将棋界の現状と今後、そして自身の戦いぶりについて聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ──将棋界はつい数年前まで群雄割拠だったのが、藤井五冠、渡辺明名人(二冠)、永瀬拓矢王座の3強時代となり、印象として藤井五冠の強さが際立っています。

 数年前、8人で8つのタイトルを分けるという時代もあったんですけど、それが今はタイトル保持者が3人で、3強時代と言われています。ここ1、2年は藤井竜王の躍進が目立ちますね。正直、ここまで短期間で半数以上のタイトルを取るとは想像していませんでした。初めてタイトル戦に挑戦してから2年も経たないうちに、ゼロから5になったということでスピード的には驚異的ですね。今までタイトル戦を7回戦っているわけなんですけども、一度も負けていない。過去に偉人が時代を築かれたなかでもちょっと例がないですね。

 ──会長からご覧になった藤井五冠の強さはどこにあるのでしょうか。

 ひとつは、本人の能力というか、資質というか、もともと詰め将棋が得意という、それで培った終盤力ですね。これはなかなか他の棋士も真似ができない状況ですので、そこの強さが大きな武器ですね。かつ、近年はAIを含めた序盤研究に力を入れられて、そういう意味では全体的にパフォーマンスが高い。他の棋士と比べてもパフォーマンスの安定度、高さが一歩抜きんでているのかなという感じがしますね。

6月には藤井五冠と対局で注目

 ──その意味で、6月からの順位戦A級リーグの第1局で、会長と藤井五冠が対局することになり、注目を集めています。

 そうなんですよ。9分の1を引いちゃいましてね(笑)。まさかという感じだったですね。でも、最終戦で当たっても初戦で当たっても、どの一局でも大きな一局になりますので、そういう意味では意識は同じかなと思いますね。注目もされていますので、自分なりに準備して臨みたいなと思います。

 ──-会長ご自身のことを。連盟会長の激務をされている一方で、現役の棋士としてA級リーグを戦われていらっしゃる。

 基本的には(会長としての)公務の方を優先しています。対局のときは、非常に集中して指すことができているかなと思います。研究というよりは、今までの経験と当日の集中力というか、そういうイメージで対局している感じが強いですかね。将棋の研究って正直、ケリをつけるのが難しいんですよ。例えば、最新のAIを取り入れた研究が盛んなんですけども、自分の場合、そこに首を突っ込んじゃうと逆に中途半端で終わってしまう気がしていまして。今は、あまりやっていません。自分の対局の振り返りとかはやっているんですけども、最新型の研究に首を突っ込むとかはやってないですね。将棋は心技体全部そろっていなければいけません。技術の部分を磨くのがいちばん大事なので、当たり前ですけど、今のスタイルだとやはり限界があるので、どこでどう自分なりに新しいテーマを見つけて変えていくかということは模索しているところです。

 ──環境が激変するなかでA級を維持し続けていらっしゃるのはすごいことです。

 40代の時に1度降級したことがあります。会長に就任した2017年、この時も降級してもおかしくない成績で、辛くも残留を果たしたことがあったので、そういう意味では1勝でガラッと変わっちゃうんですよね、棋士人生が。降級していたら、今の舞台で戦えているかどうかも分からない。正直、運が良かったというしかないですよね。まあ、逆にあと1勝でタイトル挑戦を逃したこともありますから、良かったり悪かったりという感じでしょうかね。

■ 将棋連盟創立100周年に向けた取り組み

 ──24年に将棋連盟は創立100周年を迎えます。それに向けて東西で新会館が建設されるとのことですが、進捗具合はいかがですか。

 24年9月が将棋連盟100周年に当たり、それに向けて東西の将棋会館を建設、移転計画を進めています。関西の方が(竣工は)少し早くて24年初頭ぐらいになるのかなと思っています。そして9月に東京と、同じ年に東西両方で移転完了という形になります。ファンの皆さまには、ふるさと納税制度とかクラウドファンディングなどで大きなご寄付をいただいていまして、企業の皆さまも含めて、非常にありがたいなと思っています。

 ──会長就任後、ABEMAトーナメントをはじめ、積極的に将棋の裾野を広げる取り組みをされていらっしゃいます。

 将棋の盤上のみならず、応援する棋士に注目いただいたり、最近は「将棋メシ」といった食べ物ですとか、歴史的なものも含めて、将棋のルールを知っているぐらいの方、初心者の方でも楽しんでいただけるような形になりまして、正直、最初は驚いたんですけども、ありがたいことかなと思っています。

 ──プロの団体戦というのが非常に新鮮でした。

 ABEMAトーナメントは第3回からですかね、団体戦になりまして、私も参加させていただいています。棋士が棋士を応援するって、あまりないんですよ。普通は「負けてくれ」って(笑)。3人一組で同世代とか、気の合った仲間がチームをつくるケースもありますし、全然知らない棋士と以前から交流したいなと思っていて、そういうところで接点を見つけてというケースもありまして。世代を超えてチームをつくる形もあって、自分自身にとってもいい影響、新しい刺激を受けさせてもらっているのかなと思います。ファンの方の反響も非常に大きいトーナメントですので、今後も楽しんでいただければと思います。

ゴルフは感覚派、ベストスコア80

 ──趣味の話を。ゴルフがお好きと聞いています。

 ゴルフは結構長くて30年ぐらいやっていまして、いちばんいい気分転換になりますかね。最近はちょっと減っていて、年に15回ぐらいですね。集中力をはじめ自分を測るバロメーターになっています。

 ──ご自身のゴルフをどうとらえていらっしゃいますか。

 そうですね、ゴルフは完全な感覚派です。理論に基づかない感覚派ですね(笑)。将棋は理論に基づく感覚派だと思ってますよ。

 ──ちなみにベストスコアは?

 80です。でも10年以上も前ですね。いまは100を切るとようやくストレスがたまらないぐらいです(笑)。ここ1年ほど、また100を叩くことが多くなってきています。

 ──中高生のころ、記録係で学校を休むことが多くて「学校やすみつ君」というあだ名で呼ばれていたそうですが。

 アッハッハ。いまは大学生以上というのが基本になっていますが、当時はまあ、そういうこともなかったので、中学、高校時代と記録係をやっていました。でも、間近で真剣勝負の雰囲気を味わえたことはいい勉強になりましたね。

 ──最後に、今年の新年度のあいさつで「将棋は変化無限の最高峰」という言葉を使われました。その真意をお聞かせください。

 AIによる技術革新で今なお進歩している将棋は、決着に至る過程のなかで、変化は無限なところがあり、大逆転も起こり得るゲームです。最高峰というのはちょっとおこがましい感じがしますけれど、私も現役で35年以上やってきて非常に尽きぬ魅力があります。将棋には数百年の歴史がありますが、そういう面白さがいまだに内包されているというところがあり、奇跡的なところもあるのかなと思っています。このあたりが大きな魅力でもあるので、一人でも多くの皆さまに楽しみ、感じていただければありがたいなということで、テーマとして掲げさせていただきました。

(聞き手=山田稔)

▽佐藤康光(さとう・やすみつ) 1969年生まれ。京都府八幡市出身。「羽生世代」の一人。87年、17歳で四段昇段。93年竜王戦で初タイトル。名人2期、棋聖6期などタイトル通算13期、永世棋聖の資格保持者。2017年から日本将棋連盟会長。趣味のゴルフは30年のキャリア。

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