口の中がモグモグタイムになった「エゾ鹿の串焼き」
ばんえい競馬(1)
「どうして賭け事をするんですか」
「別に好きじゃないけどね。つまんないし」
「ええっ!? そうなんですか」
ギャンブルのことを聞かれたら、こう答えることにしている。それでもやるのはわかりやすくいえば、数字が走るから。
「数字が走っていれば何でもいいんですか」
「そう、何でも。例えば、向こうから車が近づいて来たら、ナンバーの末尾を当てた方が1000円とか」
この辺まで話が進むと大抵は呆れ顔になり、半ば蔑みの笑みが向けられる。でも、ギャンブルはそんなもの、である。
というわけで、3月12日、とかち帯広空港に向かう羽田発12時50分、エア・ドゥ(AIRDO)65便に乗り込んだ。十勝といえば、ばんば、帯広競馬場で行われている世界で唯一のばんえい競馬だ。ばんえいは「輓曳」と書く。ソリを引く馬。
山口瞳は「輓曳競馬が嫌いである」と書いた
作家の山口瞳先生は「草競馬流浪記」の岩見沢競馬場のくだりで「輓曳競馬が嫌いである」と書いた。そうか。ならばこの目で確かめよう、と思った。
空港に近づくと、眼下にはスクエアに区画された畑(田んぼ?)がうっすらと雪に覆われていた。
到着してロビーを出ると目の前に予約しておいたカーシェアの車が。利便性よすぎ。いい感じで旅打ちのスタートが切れた。
帯広競馬場までは十勝平野のまっすぐな道を走ること26キロ。路肩には黒ずんで硬く凍った雪の塊が所々に積み上げられている。住所は西13条南9丁目、信号の表示は「西13南9」。帯広は130年前(明治25年)に植民区画され、碁盤の目状に街ができた。
400台収容できる駐車場に入るとすでに満車状態だった。
入り口で手指消毒、検温してもらい、場内へ。1階ホール入り口を通ろうとしたら、右手に「ばかうまや本店」という串焼きのキッチンカーがあった。クンクン。い~ニオイ。食べ物が目の前にあると食べたくなる愚か者、略して愚食者、等級を上げると愚食家である。
焼いていたのは美唄モツ、鶏、豚の他にラムとエゾ鹿だった。ラムは「だよね」という想定内の味わい。だが、エゾ鹿は違った。脂っぽくて噛み切れない。口の中がモグモグタイム。難物。でも、命の恵み。
まずはばんえい事業部広報課長の藤田裕史さんに話をうかがった。かつて帯広、旭川、岩見沢、北見で開催されていたばんえい競馬は今では帯広だけになった。まさに斜陽だったのが、この帯広に老いも若きもやってきて人気が復活し、巣ごもり需要でネット・スマホ投票が飛躍的に拡大している。2020年度発売総額は約484億円で4場開催だった1991年度の約1.45倍に増え、21年度は500億円を超え過去最高、前年比107%の約518億円に達した。
■データ 歩数計
1万4210歩8.7キロ (3月12日)
(峯田淳/日刊ゲンダイ)