ファンゴー社長 関俊一郎さんの巻(3)
PATH(東京・富ヶ谷)
ハンバーガーやアップルパイなどの専門店を手掛けるこの人が薦める、第3弾の「PATH」は2015年12月のオープン以来、モーニングの営業を柱のひとつに据える。夜は、常連が絶えないビストロだ。
「シェフの原太一さんは、ウチのファンゴーダイニングの卒業生で、2つ星フレンチのミッシェル・トロワグロなどでも修業を重ねています。料理の引き出しが豊富で、フレンチを気軽に利用できるスタイルに仕上げたセンスがいい。朝は、自家製酵母で手作りする、クロワッサンやカンパーニュなどのパンをいただくカフェスタイル。中でも、生ハムとブッラータチーズのダッチパンケーキが名物です。昼間と夜のどちらにも強みがあるのが素晴らしいと思います」
代々木公園駅と代々木八幡駅から歩いて5分ほどの店は8時に開く。15時にランチタイムを終えると、休憩を挟んでディナーは18時からだ。原さんが腕を振るうディナーに予約して店へ。商店街からガラス越しに店内が見えるのは、カフェのようなたたずまいだ。
「この店を開く前、モーニングがある店をやりたいと思っていました。そんなとき、トロワグロで一緒に修業したパティシエの後藤裕一さんと会うと、お互いのイメージがすごく近くて。それで、2人でつくり上げたので、カフェよりのビストロになっています」
そういう原さんは2011年、渋谷に「Rojiura」というビストロをスタート。それもあってカフェ寄りだ。
見た目はフレンチの鮮やかさだが、とにかく繊細
さて、予約は8360円のコースのみ。料理5品とスイーツ2品にパンとコーヒーがつく。テーブルには、その日のメニューリストが置かれていて、皿ごとの食材が書かれている。たとえば、最初は「牡蠣、ホウレンソウ、トマト」、2皿目は「ブリ、赤カブ、ビーツ」といった具合で、味は分からないが、好物の牡蠣があるのはうれしい。その1品目はトマトの冷製スープ仕立てだった。
「牡蠣は軽く火を入れてウマ味を凝縮。ホウレンソウのほかに揚げナスを添えています。トマトはどこ? 果汁だけを搾り出しているので、赤くなく透明なんです」
スプーンですくって口に運ぶと、トマトの爽やかな酸味と甘味を感じる。噛みしめれば、牡蠣のエキスとともにナスやホウレンソウの香りも追いかけてくる。
ブリはカルパッチョで、スライスした赤カブと一緒にサラダ風に。カブを発酵させたパウダーとビーツで味をつけている。
見た目はフレンチの鮮やかさだが、1皿目といい2皿目といい、とにかく繊細。和食のような優しさを感じる。
それを強く感じたのが「白子、春菊、アサリ」と書かれた3皿目だ。すりおろした春菊をアサリの出汁でのばしているという。さいの目状の大根を下敷きに白子を浮かせて、薬味にエシャレットとネギを散らす。日本料理店で出されても不思議ではない一品は、しみじみとやさしい。和食党の中高年男性も、ハマる。関さんが「センスのよさ」を強調したのも納得だ。
バターを多用せず、エスニックの要素も
「独立当初は、トロワグロのような料理を目指しました。でも、ひとりでこなすのは無理。それでいろいろとそぎ落とし、今のスタイルに落ち着きました」(原さん)
料理はメインからスイーツへ。魚はマダイのポワレで、ソースは白ニンジン仕立てでふわっとしている。仔羊はヨーグルトやスパイスでマリネしてあり、レアでタンドリー風の味わいだ。そしてスイーツのひとつ、野菜のルバーブとイチゴを合わせたものは、フキノトウで香りを添える。
「バターを多用せず、エスニックや和食の要素も取り入れているので飽きずに食べられます」(関さん)
気の置けない仲間とふらりと訪れたい店だ。
(取材協力・キイストン)
■PATH
東京都渋谷区富ケ谷1-44-2 A-FLAT1階 ℡03.6407.0011
■ファンゴー
サンドイッチもハンバーガーも、パンが重要な要素で、自社パン工房を設立。「酒 秀治郎」は会員制ながら、8500円で日本酒飲み放題とあって、日本酒好きの間で話題に。
▽関俊一郎(せき・しゅんいちろう) ファンゴー社長。カリフォルニア大学での米国生活でサンドイッチ文化に感化され、1995年、三宿に第1号店「FUNGO」をオープン。さらにハンバーガーやアップルパイ、和食の店も手掛ける。