谷口真由美さんが深刻危惧「“おっさんの掟”に縛られていたら日本の地盤沈下は止まらない」

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谷口真由美さん(大阪芸術大客員准教授)

 “わきまえない女”が日本ラグビーフットボール協会や日本社会に斬り込んだ「おっさんの掟」(小学館新書)が売れている。今年発足した国内新リーグ「リーグワン」の準備に携わるも、変化を拒む同調圧力にはね返され、地域密着型のプロ化構想は骨抜きになった。迷走するラグビー協会の失敗の本質はどこにあるのか。「おっさん」が活躍するこの国の地盤沈下は止められないのか。元ラグビー協会理事に聞いた。

■ラグビー協会から内容証明「分かってんやろうな」

 ──先月上旬の発売以来、重版がかかる売れ行きです。

 ラグビー界の方からも「よくぞ書いてくれた」とメッセージをいただいたんですよ。立場上、表立って言うことはできないけれども、「自分もおんなじような目に遭った」っていう方々が結構ご連絡をくださって。それこそ、かつて協会理事をされてたような方からも。何十年も前から同じような状況だったといくつも聞いて、本質が変わってないねんなと。

 ──協会の反応は?

 ありましたよ。本にも書きましたが、昨年7月に内容証明郵便で「協会内で知りえた情報を口外すれば法的措置を含む断固たる措置をとる」という趣旨の文書が届いたんです。それまで協会内での出来事や新リーグ審査のプロセスについて詳細を話すことを避けてきたんですが、考えを改めました。協会上層部の対応を見て、話すべきことは話さなあかんと。2通目は出版前、3通目は出版後に届きました。「秘密保持契約に違反してへんやろうな」「(理事会傘下の)女子委員会の委員やのに、ラグビー界の品位を傷つけたらどういうことになるか分かってんやろうな」みたいなことでしたね。

 ──「秘密保持」と言いながら、新リーグのディビジョン分け審査については森重隆会長が取材に過程を漏らしています。

 5通集まったらハワイにでもご招待してくれるんやろか、と思って。反論があるなら、ちゃんと反論すればいいと思いますし、女子委員会の委員を持ち出すんだったら、なんで何のアナウンスもなく突然私のメールアドレス消されたん? 理事を終えた後でも、そういった委員を務める方は協会のアドレスをそのまま使えてるんです。

 ──昨年7月に前触れもなく削除というのは、公益財団法人が聞いて呆れる陰湿さですね。

 ラグビー界をおとしめたいわけではないんです。私のアゴ外れましたという話だったら、それはそれで良かったですけど、構造的な問題なんです。一人一人はイイ人なんですよ。飲んでても楽しいし、仲間みたいな感じの時はええ雰囲気やなと思ってはいるんです。けれど、ひとたびチームプレーのようなものが、「おっさんの掟的なチームワーク」として発動すると変やなと。「アンタもこれで言いたいこと言うたでしょ。ほなもう、ノーサイドで謝りぃや」みたいなことをおっしゃってこられる方がいるんですけど、「黙れ」という意味で「ノーサイド」を使うのは違う。「こんなふうにこれまで収めてこられたんやろな」というのも、手法として分かってしまった。

■タテ社会に「根拠なき楽観論」が蔓延

 ──長い物には巻かれろ、なあなあで済ませろ、と。協会で目にした光景は、日本軍の組織的敗因を分析した「失敗の本質」が指摘する〈合理的思考よりも優先される年功序列、それに伴う上長への行き過ぎた配慮、曖昧な命令による組織の迷走〉と重なると指摘されています。

 私は協会で異質な存在だったと思うんですね。他の方だったら、学閥とかいろいろなルートのタテ社会がある。突き抜けた人が出てきたら、先輩筋から「黙らせろ」「一言いうとけよ」みたいなのがあって、「そろそろ気ぃつけろよ」となったんだと思うんですけど、私にはそういうルートがない。「どこから言ったらアイツ黙んねん」ですよね。「黙らへんですみませんねぇ」なんですけど、ガバナンスが効きだすのはそういう時だと思うんです。ルートが異なる人間が入ってくる、あるいは外部の目が入る。すると、なあなあで済んでいたことを言語化しなければいけない状況になる。そうして風通しが良くなったり、多様性が確保される方向につながっていくんだと思うんですが、学者の世界も同じなんですけど、いわゆる空気読んで「なあ」の一言で理解し合える世界って楽なんですよね。ラグビー界は2019年W杯の成功を機に競技人口とファンを増やし、世界に負けない土壌をつくっていかなければいけないはずですが、実際は「W杯も成功したし、現状維持でいいじゃないか」と考える人が驚くほど多かった。「根拠なき楽観論」です。

おっさんは主語で語れず「ニッポンは」と言う

 ──「ラグビーを子どもにさせたいスポーツ、ナンバーワンにしたい」との思いで理事会に提案し、承認もされた「日本ラグビーの価値言語化プロジェクト」は予算がついたのに実現していないそうですね。

 理事会のみなさんに「ラグビーの良さって何ですか?」と聞くと、「いろいろありますが、やったら分かりますよ!」という答えが大半。「やってない人間には見てもらわんでええってことですか?」という話ですよね。「ラグビー村」と揶揄されるゆえんで、外に向けて発信する共通言語をあまり持ってこなかった。それで、ラグビーの価値を認識し、関係者であることを誇りとして行動してもらえるよう新たなスローガンおよび指針を策定しようと考えたんです。リポートも作成し、理事会で協会HP掲載が確認されたんですが、掲載されていない。パイは経験者にしかないとすると、良さを分かってくれる人はむちゃくちゃ少ないじゃないですか。少子高齢化の時代に「1チーム15人」の選手が必要な大人数のスポーツが発展し続けますか? 能力やポジションに応じた多様な選手をピッチに30人集めなきゃいけない。控えの選手も入れたら23人ずつですよ。レフェリーやらなんやらとなると、たくさんの人がいなければできない。「いい競技だよね」「応援したい」と思ってくれる人、協会活動も含めてサポートしてくれる地域の人を増やさなきゃダメなのに、「自分らだけ分かってたらええねん」ではつらい。

 ──「令和のおっさん」を「ムラの長」に絶対服従▼「みんながそう言っている」など思考停止ワードが口癖▼とにかく保守的で「勝ち逃げ」できればいい▼「アレオレ詐欺」の常習犯──と定義されています。内部でしか通用しない「俺たちのルール」である「おっさんの掟」は社会全体に蔓延している印象です。

「おっさん」に年齢や見た目は関係ありません。「おっさん」は主語で語れないんです。「オレが嫌やからやめてくれ」と言ったらいいのに、「ここの組織にとって、それは良くない」というふうな言い方をする。「私が嫌だからやめてほしい」と言えば、「私」に責任がかかってくる。だから、「そろそろヤバいことになんでぇ」と空気感みたいなのをお伝えくださる。「誰が?」「どこが?」「なんで?」でしょ。「ニッポンは」と言うのもそうで、「愛国」も同じ文脈です。

 ──あるあるですね。

「今の若い人は内向きやから留学行けへんのです」とか言うけど、日本全体が内向きだから子どもも内向きになっていく。協会で私が直面したような状況は、ほかの団体や会社などでも起こり得ると思うんです。世界の中の日本がムラ化し、小さい地方都市のようになってきている。ひとつの言語が公用語として通用して、外国の方からしたら文字が読みにくくて勉強しづらい。かつ、日本における報道は日本語で日本人向けに日本のことしか扱わない。ある意味「ジパング」なんですよ。地盤沈下しまくっている中で、それすら気づいていない「おっさん」はたくさんいる。日本全体の話でもあるんです。「おっさんの掟」が法も政策も人権も凌駕して、「何が正しいか」ではなく、「誰が正しいか」で物事が決まるのは人治主義。例えば憲法に基づいた政治をするのが立憲主義なのに、憲法を分かって国会運営してんのかな? それが「国会の掟」なのか、「国会のおっさんの掟」なのか分からないですけど。岸田さんの「新しい資本主義」にしたって、「グローバルな基準の中で、これホント大丈夫なんですか?」っていうツッコミを入れる人が減ったら困りますよね。「おっさんの掟」は、その世界でだけ生きていく人にとっては心地いいんです。外に出たら通用しない人ほど守られるから。こんなんやったら、どないもならへんでしょ。「日本ってどこにあったっけ?」となりますよ。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽谷口真由美(たにぐち・まゆみ) 1975年、大阪市生まれ。大阪大大学院国際公共政策研究科博士課程(国際公共政策)修了。専門は国際人権法、ジェンダー法など。父親は近鉄ラグビー部元選手でコーチを務めた谷口龍平氏。合宿所で幼少期を過ごし、「花園ラグビー場の娘」と呼ばれた。2019年6月に日本ラグビーフットボール協会理事、20年1月にラグビー新リーグ法人準備室長に就任。新リーグ審査委員長も兼任するが、21年2月に法人準備室長を退任。同6月には協会理事、審査委員長も退任した。「日本国憲法 大阪おばちゃん語訳」「憲法って、どこにあるの?」など著書多数。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍。

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