シャルパンテ 藤森真さんの巻(5)
遠藤利三郎商店(東京・墨田区)
人気ソムリエのこの人が薦めるシリーズ、トリを飾るのが、東京スカイツリーのおひざ元、押上にある人気ビストロ「遠藤利三郎商店」だ。和食店のような屋号ながら、「下町のワイン居酒屋」として人気を集めているという。
「オープンは、2009年で、スカイツリーが開業する3年前です。実はオーナーの実家が元は味噌問屋で、その屋号を店名にしているので和風な印象になっています。しかし、蔵をリノベーションした店内は入り口の扉を開けると、右手の壁がワインボトルで埋め尽くされていて、ワイン好きにはたまりません。その品ぞろえが素晴らしいのです」
各線押上駅からスカイツリーを背にして歩いて5分ほど。一戸建てが並ぶ住宅街の一角にある。知らなければ、オシャレなビストロがあるとは想像しにくい。それだけに期待が高まる。
通されたのは、L字形のカウンターの中ほど。目の前のクーラーにはグラス用のワインが入っていて、右斜め前に厨房が見える。背中は、圧巻の“ワインの壁”だ。ワイン窟のような空間で、そのリストを手に取ると、分厚さに驚く。
「20ページくらいあるため、正直、選びきれません。このお店は、料理を決め、ワインの味の好みを伝えたら、それぞれの皿に合うグラスをチョイスしていただくのが最もコスパがいい」
まずはオーストラリアのスパークリングで乾杯しながら、料理を選ぶ。パテやレバームースなどを盛り込んだ「お肉の前菜盛り合わせS」(1000円)はマストだとして、隣の女性が口にした「キノコのストウブオムレツ(1300円)なんて温まりそうよ」という声につられて、こちらも指名。さらに、「焼いたシーザーサラダS」(750円)とは?
「ロメインレタスを軽くあぶってから、チーズと合わせるんです」
口の中で森の香りが広がる
なるほど、スタッフの説明に腹がグーッと鳴った。よし、それにして、メインは「フランス産鴨胸肉のローストS」(2000円)に決めた。ワインはどうしよう?
「最初のお肉の前菜には、オーストラリアのソモスブランキート20はいかがでしょうか。ブドウはヴェルメンティーノが88%で、シャルドネやピノノワールなどを合わせていて、フレッシュ感とウマ味、果実味のバランスがとてもいいと思います」
産地やブドウの種類、味の特徴など詳しく説明してくれる。グラスは500円~で、中心は1000円台。初心者の記者は、お薦めに従うのみ。パテやレバームースなどしっかりとした味にも負けず、軽さの中に飲みごたえがある。任せて正解。
シーザーサラダは火を入れても、シャキシャキ感が損なわれず、チーズがよく絡む。ベーコンの食感もよく、これまたワインが進んでしまう。
「オムレツには、黒トリュフをトッピングすることもできます。いかがなさいますか?」
5グラム、1000円。せっかくなのでお願いします。で、出てきたのが、黒い花びらが卵を覆い尽くしていた。い~い香り。ぜいたくにスプーンですくってがぶり。口の中で森の香りが広がる。
「南アフリカのクルーガーファミリーワインズ パーリーゲイツ・ピノノワール16は、ピノノワール100%です。アルコール発酵の前に5日間低温をキープすることで、荒い渋味を抑えています。古樽で11カ月熟成させているため、時間とともに変化する複雑な香りを楽しんでみてください」
酸化するにつれて口当たりがマイルドになる。難しいワインの世界も、相性抜群の道先案内人がいれば気軽に楽しめるだろう。
中国産の実力、コスパのよさに脱帽
そして鴨肉との一杯は中国のワインだった。
「中国ワインは今注目の高品質で、明らかに世界を意識していて、ルイヴィトンモエヘネシーやロートシルトなど世界有数の生産者の参入も相次いでいます。そんな中、シルバー・ハイツ ザ・ラスト・ウォーリアー・レッド16は、カベルネソーヴィニヨン80%、メルロ20%で、特にお薦め。コスパのよさに驚きます」
この味、かなり好み。フォンドボーを使用したという鴨肉のソースにもよく合う。
近くには、料理もワインも全品500円の「角打ワイン利三郎」も営業中。用途に合わせて使い分けるといいだろう。
(取材協力・キイストン)
■遠藤利三郎商店
東京都墨田区押上1-33-3 電03・6657・2127
■シャルパンテ
欧風ワイン居酒屋「VINOSITY」を展開するほか、ワインショップやワインスクールも運営。飲食店のプロデュースや開業支援なども行う。
▽藤森真(ふじもり・まこと) 日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ。フレンチレストランなどでバーテンダーを務め、ソムリエの先駆者、田崎真也氏の薫陶を受ける。ピッツェリアやステーキハウスなどを手掛ける「スティルフーズ」で支配人に。2010年、シャルパンテを設立。