シャルパンテ 藤森真さんの巻(2)
水新菜館(東京・浅草橋)
ソムリエの第一人者、田崎真也氏の薫陶を受けたこの人は、仕事柄ビストロやバルはもちろん、あらゆる店を巡りながら、料理やサービスを探求する。食べ歩きのエキスパートがチョイスした2店目は、中華の「水新菜館」だ。
「浅草橋の駅から浅草方面に歩いて3分ほど。そのロケーションといい、赤い大きな看板の店構えといい、町中華そのものです。マスターの寺田規行さんの接客がすばらしいし、お薦めのワインが抜群。だれもが寺田さんのファンになります」
ソムリエが絶賛する町中華のワインとは。興味津々、店に向かうと、寺田さんに奥の席を案内された。席に着くなり通る声で「お手を拝借」。何かと思えば、今や定番の消毒スプレーの吹きかけだ。飲み物を尋ねられて「瓶ビール」と答えたら、「ウチは、アサ“シ”だからね」と強調する江戸弁で笑いを誘う。
「肉巻きは、ウチの名物で、ひき肉を湯葉で巻いて揚げたもの。ビールに合うよー」
もはやマスターに言われるがままだ。出てきたそれは、見た目春巻き。口に入れた食感は、人気の点心よりかなり軽く、ビールに鉄板の肴だ。味つけはケチャップより断然塩がウマい。
「何を頼んでもおいしいので、好みのアラカルトをシェアするのはもちろんいい。でも、お腹がすいているなら、マスターに任せるのが一番です」
藤森さんの言葉が、1皿目にして分かる。お薦め2皿目の「蒸し鶏のネギ風味」は、コショウの海に蒸し鶏と白髪ネギが浮かぶ。ユニークな盛りつけに目がクギづけ。口に運べば胃袋が喜び、手はグラスに伸びる。
小籠包の説明はまるで落語家の言い回し
1897年、明治としては珍しい果物屋として創業。水菓子の「水」と創業者・新次郎の「新」を取り、屋号は「水新(みずしん)」。そこに「菜館」を足し、中華に舵を切ったのはマスターの代からだそうだ。
「さあ、小籠包が参りました。お手伝いしましょう。小皿にまず醤油をちょっと、酢を少々混ぜます。レンゲに一つのせて、皮の底に口づけしたら、チューッとスープを口吸いですよ。そうしたら小皿のタレにつけて、アッチッチのうちに召し上がってください」
まるで落語家だ。その後も、絶妙な距離感と声掛け、料理の説明で、グイグイと寺田ワールドに引き込まれていく。さて、ワインに合う料理は?
中華とワインのマッチングにハズレなし
「中華に使う甜面醤、豆板醤などの醤は発酵食品で、発酵食品はワインに合う。油料理も相性抜群で、中華とワインのペアリングはハズレがないんです。ご注文の『牛肉細切りの甘味噌炒め』でしたら、この3本はいかがでしょうか? シラーをお選びなんて、お客さんもお好きですねー。甜面醤とシラーのマッチングは最高です」
なるほど、醤の甘さがワインを引きたて、ワインの余韻が牛肉のウマ味を増幅する。トリコロールカラーのシャツを着こなすマスターが、名ソムリエに変身したが、「めっちゃウマい、いただきましたー」とサービスマンに戻って去っていく。
料理は多くが1000円台半ばで、数人でシェアできる。“アサシ”ビールは550円。「数百本はそろえている」というワインは、懐具合と相談してセレクトしてもらうといい。全力で寺田ワールドを楽しみたい店だ。
(取材協力・キイストン)
■水新菜館
東京都台東区浅草橋2-1-1
℡03.3861.0577
■シャルパンテ
欧風ワイン居酒屋「VINOSITY」を展開するほか、ワインショップやワインスクールも運営。飲食店のプロデュースや開業支援なども行う。
▽藤森真(ふじもり・まこと) 日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ。フレンチレストランなどでバーテンダーを務め、ソムリエの先駆者、田崎真也氏の薫陶を受ける。ピッツェリアやステーキハウスなどを手掛ける「スティルフーズ」で支配人に。2010年、シャルパンテを設立。