ネイル業界に新しい方向性 ファッションから医療分野に転身へ
小笹寿里さん(41歳)本業=ネイルアーティスト/副業=爪ケア技能者(予防医療)
今回注目するのは「爪」だ。いま、岐阜県出身のネイリスト、小笹寿里さんはファッション系から予防医療へと軸足を移しつつある。
「私がファッション系のネイリストになったのは、30歳の時です。結婚を機にネイリストの資格を取得しました。試験対策の記事や動画をネットにアップしていた先輩ネイリストの松本めぐみさん(東京)と出会ったのもこの時期です。当時は倖田來未、ローラ、神田うの、IKKOさんらのメディア露出が多く、ファッションネイルが一般化してきた時期でした。そこで一念発起して、自宅を改装して独立しました」
小笹さんは、まずは友達に声をかけ安価でサービスを提供。100人達成したら価格を上げると決めて、口コミでお客さんを増やした。
「半年くらい経つと、ほぼ固定客がつくようになって毎月来てくれる方たちが30人くらいですかね。多い時で1日5人。最大でも月に20万円くらいの稼ぎですね。美容室と似ていると思います。ネイルアートをする道具がネットショップでも手に入るようになってきて、これ以上、売り上げを増やすのは限界だなと思っていたところ、松本さんがフェイスブックにある記事を投稿していたんです」
サロンの固定客に「おばあちゃんの爪のケアしてみない?」
「障がい者施設に爪をケアしに行く」。小笹さんが記事に反応したところ、松本さんから声がかかり一緒に都内の施設へのケアに同行したそうだ。松本さんにも話を聞いた。
「歩行に異常が見られた時、実は巻き爪や菌などが問題になっていることは多いです。爪のケアは複雑で、成長の個人差、形状、歩き方、菌の種類、その人の性格、認知症・精神疾患・身体障がいの有無などへの対応力が求められます。医療者は忙しいこともあり爪まで対応できないことも多いし、医療者以外の人がケアをすると責任問題になったり、診療報酬にならなかったりします。そこでご本人、ご家族、関係する医療者の方たちのコンセンサスがとれた状態で、ネイリストが実費を頂いてケアするのも一つの方法論だと思います」(松本さん)
自分にできるのか最初は不安だったが、サロンの固定客に「おばあちゃんの爪のケアしてみない?」と話を振ってみたところ、思った以上に反応があった。実際にケアをしたら喜ばれた。
爪ケアはアートネイルの倍の単価
「17年に、松本さんらが立ち上げた爪ケア技能検定の資格を取得して、予防医療的な爪ケアを副業として始めました。爪ケアは技術と知識が必要な分、単価は高くアートネイルの倍です。2年くらいの副業を通じて、もっとできると確信しました。サロンまで通うのが大変という声もくみ取って、21年の12月、自己資金とクラウドファンディングも使って『爪ケアサロンカー』を開発しました。医師、看護師、介護士の方たちも資金協力してくれました」
爪ケアサロンカーの本格稼働は今年4月の予定。これを機にファッションネイルを副業に、爪ケアを本業にシフトすることを決めたそうだ。超高齢社会の日本に新しい市場が生まれている。