「せいとう」城麻里奈さんの巻<5>

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伊勢重(東京・日本橋)

「日本橋せいとう」は、日用雑貨を扱う店からスタートし、喫茶店、洋食店と衣を替え、熟成肉とワインを楽しむ今のスタイルに至る。その3代目が紹介する日本橋の名店シリーズ、トリを飾るのはすき焼きの老舗「伊勢重」だ。

「創業は何と明治2(1869)年ですから、今年で153年の歴史を誇ります。東京で最も古いすき焼きの名店で、肉は職人さんが一枚一枚包丁で切る手切りです。ほどよくサシが入った一枚を、代々受け継がれた割り下にくぐらせていただくと、肉のおいしさがふわっと優しく広がるんです」

肉の火入れが素晴らしい

 ランチのピークが過ぎた午後1時、記者が店を訪ねると、7代目の宮本尚樹社長が「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれた。食事はすべて個室。地下1階の部屋に案内される。畳敷きながら座椅子とテーブルがあって、正座でないのがうれしい。

「お薦めは、ローストビーフや一口ステーキなどがセットのSコース(夜のコースのため、ランチは事前予約を)。ローストビーフもステーキも、火入れが素晴らしいのです。そしてもちろんすき焼きも。ぜひ召し上がってください」(城さん)

 そのSコースをお願いすると、5種のお通しがスゴイ。秀逸なのがやっぱり牛肉で、まずはローストビーフだ。

 かなりサシが入った部位ながら、サラッと胃に落ちる。一口で凝縮された牛のウマ味に感動する。宮本さんの名刺には、「一口目の感動と幸せと笑顔をあなたに」とある通り、一口で食べたものの心をつかむローストビーフだ。ランチでビールやワインを飲めないのが残念でならない。

すき焼きは炭火の水火鉢で

 ビーフシチューは、デミグラスソースのふくよかなこと。そしてヒレステーキは、醤油がやや立ったタレが牛肉を引き立てている。

「タレには、割り下をベースにニンニクなどを加えるんですよ。ウチは、割り下もタレも甘くないので、サラッとした食感になりますよね。明治時代は砂糖が高価だったので、砂糖をほとんど使いません」と7代目。その絶妙なバランスは、150年の歴史がなせる技なのだろう。

「すき焼きの準備をしますね」と仲居さんがセットしたのは、炭火の水火鉢だ。Sコースの場合、肉は3種盛りで、この日は、北海道のヒレ、山形のメスのサーロイン、そして鹿児島のトモサンカクだった。

 鍋の割り下が温まると、野菜や豆腐などを盛り、3つの部位の肉を1枚ずつのせていく。「肉は5回くらいしゃぶしゃぶすれば食べごろです」の合図で口に運ぶと、サーロインは脂の甘味とウマ味が格別。甘くないタレがいい。

肉の断面の微妙な凹凸でタレや卵液が絡む

「手切りは、筋に垂直に包丁を入れるため、筋が切れます。さらに口に当たる筋は目で確認して取り除くので、肉の食感を損ないません。もうひとつのメリットは、肉の断面に微妙な凹凸ができること。それで、タレや卵液が肉に絡みやすい。これが機械ではなく、手切りのメリットです」

 肉はすべてA5ランクで、長期肥育の牛を厳選する。長期の牛は、融点が低い不飽和脂肪酸の割合が多く、体内でサッと溶けるため、胃にもたれにくい。短期は融点の高い飽和脂肪酸が主体で、溶けにくいため胃もたれにつながる。この違いはとても大きい。この肉質とボリュームで、1万1220円はオトクだ。

 さあ、文明開化の味を堪能してみませんか。

 (取材協力・キイストン)

■伊勢重
東京都中央区日本橋小伝馬町14-9 ℡03.3663.7841

■せいとう 祖父慶次氏が1947年に創業。当時は戦後の焼け野原で「コーヒーの優しい香りで人々を笑顔にしたい」と喫茶店だった。その後、フレンチ「双葉亭」のシェフとの縁があり、人気の洋食店に。現在は、熟成肉とシチリアワインを厳選する店として営業。「日本橋せいとう」のほか青山に店舗を構え、通販や宅配にも力を入れる。

東京都中央区日本橋本町2-4-12 イズミビルB1 ℡03.3271.0516

▽城麻里奈(じょう・まりな)東京女子大を卒業すると、優秀なホテルマンを輩出することで知られる米コーネル大ホテル経営学部のサマープログラムを修了。せいとうでの現場経験を踏まえて、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続日本一の加賀屋ホテルで修業。2019年、せいとう社長に就任。JSA・WSET認定ソムリエ。

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