「日本第1号の女性プログラマー」が副業で経営者になった理由
伊藤由起子さん(59歳・本業=プログラマー/副業=経営者、マネジャー)
伊藤由起子さんは「日本第1号の女性プログラマー」と呼ばれる人物。いまもIT現場の第一線で活躍しているが、副業で自身が開発したソフトウエアサービス会社の経営もしている。伊藤さんは「経営スキルは副業でもニーズがある」と話す。
「私は、38年の社会人経験のうち30年間はプログラマーとしてやってきました。しかし、良い企画・製品・サービスがあってもそれを世の中に届けられないと意味がありません。経営をしたことはないけれど、これは副業でも自分がやるしかない、専門家の人たちに任せながらやってみようと思ったんです。私自身は開発の総責任者をやりながら、経営プロフェッショナルたちをマネジメントして事業を拡大することにしました。資金調達、営業戦略、人材確保のプロを集めた経営マネジメントです」
伊藤さんが世の中に出したいと願っているのは「ZEST」というスケジュール作成システムだ。たとえば、医療・介護事業所が専門職の訪問スケジュールを作成する場合、それぞれのスタッフのスキル、その週の予定、患者さんたちのニーズ、全体の予算など、さまざまな変数を勘案しなければならない。全ての情報を処理できる熟練者でないとシフト作成が困難だったが、ZESTはこれを自動化するシステムだ。
「他にもエアコン修理の会社ですと、すべてのメーカーのすべての機種に対する技能が必要ですが、スタッフごとにできることが違うし、毎日違う修理の仕事が入ってくる。家庭教師派遣や医療機器の修理や保守もそうです。組み合わせ・マッチング問題は複雑なパズルを解くようなものです。情報処理能力が高い一番優秀なスタッフが毎日のようにシフト調整業務を任されることもあって、それが嫌で仕事をやめる人もいるんです。中にはうつ病になってしまう人もいるほどです」
後継者不足と創業数不足が背景
伊藤さんは専門家たちと協力して、ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けることに成功。ZESTをスタートアップ事業として拡大する戦略を進めている。
「経理システムなどの開発に携わってきましたが、情報テクノロジーの発達で、情報の透明性が確保できるようになりました。日次決算も可能だし、スマホで数値を見ることもできます。だから私も知り合いの経営者、VCの方たちと協力しながらできています。また会社員の方たちが500万円前後の資金で小規模店舗や事業所などの経営権を譲り受けてマネジメントだけしているという副業の事例も増えています」
いまの日本には「後継者不足」と「創業数不足」という問題がある。作り手、働き手がいてもそれを経営・マネジメントする人材が足りていないのだ。経営スキルがあれば副業でも人材が欲しいというニーズはある。後継者がいない老舗企業、小規模店舗、企画はあるが経営者がいないスタートアップ界隈などだ。報酬を聞いた。
「開発者・プログラマーとしては、作業をした分を請求する感じですが、経営となるとそうもいきません。現在の新規プロジェクトは月商数百万円くらいですが、今年の8月には、在宅医療系の大手と契約する予定もあり、10倍くらいにする予定です。経営者としての報酬はまだまだで、来年以降に普通の会社員くらいになりますかね。でも経営者としてもチャレンジできているので楽しいことばかりです」
伊藤さんは開発責任者・プログラマーという軸は持ったまま、マネジメントスキルを上げている。技能や発想系のスキルが重視される副業が多いが、実はしっかりとした経営能力は副業でも生きるのだ。