「せいとう」城麻里奈さんの巻<4>
高嶋家(東京・日本橋)
長く洋食が愛される店は現在、熟成肉とシチリアワインに力を入れる。その3代目が紹介する日本橋の老舗シリーズ第4回は、ウナギの名店「高嶋家」だ。
「創業は明治8年で、147年の歴史を引き継いでいるのが5代目の鴛尾明さんです。代々、受け継がれた技術やタレの味を守りつつも、どんどん新しいものを取り入れていて、とても刺激を受けます。その具体的な形のひとつが『共水うなぎ』です。とてもおいしいですよ」
「共水うなぎ」は、南アルプス・間ノ岳から駿河湾に注ぐ大井川の伏流水でじっくりと育てられている。取り扱う店が限られていて、関東を中心に40軒ほどしかない。厳しく管理されているだけに、その味わいは一般の養殖ウナギとは一線を画すという。鴛尾明さんが話を引き取る。
「一般のウナギは早ければ半年から1年ほどの養殖で出荷されますが、共水うなぎは平均1年半、最長で30カ月育てられてから出荷されるのです。養鰻池には、山土を敷き詰め、天然に近い環境、四季をつくり出します。ウナギにストレスなく四季を感じさせながら、じっくりと育てることで、ウナギ本来のウマ味や味わいが深まるのです」
養鰻池の掃除や水質検査、換水、魚体検査などは毎日行い、薬に頼らず育てられるという。ウナギ生産者の熱意のたまものだ。そこに、150年近い老舗の技とタレが重なれば、おいしいに違いない。
■愛新覚羅溥儀の弟、溥傑の書が…
記者が取材に訪れた年末、5代目は「お待ちしていました」と笑顔で迎えてくれた。案内された一室には、「江戸」から始まる書が掲げられている。「ラストエンペラー愛新覚羅溥儀の弟、溥傑は、ウチのウナギがお好きだったそうで、その縁で3代目がこの書を頂戴したんです」と老舗ならではのエピソードだ。
そのすごさに萎縮しそうになるところ、「共水をお持ちしますね」と5代目。親しみやすい語り口で落ち着きを取り戻した。
マイスター厳選の米とブランマンジェ
しばらくして重箱が登場。期待してフタを開けると、あめ色のタレをまとったウナギが香ばしく鼻をくすぐる。
早速、箸を入れると、身の表面はややパリッとしていて、口に運ぶとふんわりとした食感とともに、甘味が広がる。なるほど、一般のウナギよりウナギそのものの味が濃い。甘味を抑えてサッパリと醤油を利かせたタレがいいあんばいで、やや硬めの米といい、箸が止まらなくなる。
「共水うなぎ」を1匹半使用した「菊」は4950円だ。ブランドと歴史の掛け合わせで、この価格はオトクだろう。
「江戸前のウナギは、めそっこといって、細いものが好まれるので、そのスタイルにのっとって細いものを使用。焼きも蒸しも伝統を受け継いでいます。味は、太いのも細いのも変わりません」
伝統の技術を継承しつつ、おいしいウナギがあれば取り入れることはいとわない。城さんもリスペクトする「チャレンジ精神」だ。ウナギ以外の部分には、それがいかんなく発揮される。
「お米は、お米マイスターに吟味してもらっていて、コースの水菓子にはイチゴのブランマンジェを提供しています」
ブランマンジェは牛乳をゼラチンで固めたもので、ウナギ屋で出されるのは珍しい。王道を守りつつ革新も取り入れる5代目。今月17日から2月3日は、冬の土用にあたる。ウナギを食べて養生してみますか。 (取材協力・キイストン)
■高嶋家
東京都中央区日本橋小舟町11-5
℡03・3661・5909
▽せいとう 祖父慶次氏が1947年に創業。当時は戦後の焼け野原で「コーヒーの優しい香りで人々を笑顔にしたい」と喫茶店だった。その後、フレンチ「双葉亭」のシェフとの縁があり、人気の洋食店に。現在は、熟成肉とシチリアワインを厳選する店として営業。「日本橋せいとう」のほか青山に店舗を構え、通販や宅配にも力を入れる。
東京都中央区日本橋本町2-4-12 イズミビルB1 ℡03・3271・0516
▽城麻里奈(じょう・まりな) 東京女子大を卒業すると、優秀なホテルマンを輩出することで知られる米コーネル大ホテル経営学部のサマープログラムを修了。せいとうでの現場経験を踏まえて、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続日本一の加賀屋ホテルで修業。2019年、せいとう社長に就任。JSA・WSET認定ソムリエ。