松井守男
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松井守男画家

1942年、豊橋生まれ。武蔵野美術大学を卒業と同時にフランスに渡る。パリを拠点に制作活動を始め、アカデミー・ジュリアンやパリ国立美術学校に学び、またピカソと過ごす時間の中で大きな影響を受ける。2000年にフランス政府から芸術文化勲章、03年には最も栄誉ある勲章レジオンドヌールを受章。著書に「夕日が青く見えた日」(フローラル出版)がある。

平山郁夫さんの言葉に憤り「原爆の絵を描いてはいけないのか」

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 2016年、フランス最高の勲章であるレジオンドヌール勲章を北野武氏が受章し、大きな話題を呼んだ。しかし、松井氏はその13年前に同章を受章している。フランスでは誰もがあこがれるアーティスト。ただ、日本での知名度は十分ではない。

 なぜか?

「私は、ピカソ同様に画廊も画商も付けずにこれまでやってきた。もちろん、過去に何度も日本の有名画廊からオファーを受けたことがある。しかし、私は日本の美術界の杓子(しゃくし)定規な考え方がどうしても好きになれない(笑い)。わかりやすい例が、『美術年鑑』に掲載されている、サイズあたりの絵の価格だ。1号いくらという具合に、サイズによって価格が決められている。芸術家ファーストではなく、ビジネスファースト。つまり、アーティストよりも、値付けをする画廊や画商の方が偉くなってしまっている」

 日本の美術界にアンチテーゼを唱える異端者──。それゆえ松井氏は、母国である日本ではペルソナ・ノン・グラータ、“好ましくない人”となる。

「レジオンドヌールを受章しているにもかかわらず、私は『美術年鑑』に掲載されていない(笑い)。自分で価格を付け、フランスで自由にアーティストとして生きている私の存在が面白くないのだろう。私が《レクイエム・ヒロシマ》という作品を描いたとき、平山郁夫さんに会ったことがある。彼は広島出身。会うなり、『おいキミ、原爆を体験していないのになぜ描こうというのだ?』と問われた。体験していなければ描いてはいけないのか? 芸術というのは、何もないところから生み出すものではないのか? さらには、“キミ”呼ばわりである。四六時中、マウンティングをしている日本美術界を象徴するような言い回しだ。さすがに、私の秘書であるロベールが、『あなたはフランスでは誰も知らない。ピカソに会いました?』と色をなして抗議した。あのときは、胸がすく思いだったなぁ」

 長引くコロナ禍で、松井氏は芸大に通う学生たちと交流する機会があったという。そのときも、日本美術界の変わらない暗部をのぞいた気持ちになったと振り返る。

「大きなカンバスに立派な絵を描いていた学生がいた。私は、『素晴らしい! 才能がある』と声を掛け、いくらで売るつもりなのか聞いた。すると学生は、か細い声で『20万円です』と教えてくれた。『その価格でないとダメだと画廊から言われて』と続ける姿に、私は困惑した。もっと伸びるかもしれない才能が、ビジネスによって、あるいは権威によって閉ざされていく。お墨付きをもらわないと食べていけない──多くの人が右向け右になっていて、自分の可能性を信じられなくなっている。食べていくことは大事だ。しかし、食べていくために、その道を選んだのか。思い出してほしい」=つづく

(構成=我妻弘崇)

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