西洋人にとって日本人の価値観は謎 酔うことは悪魔に隙を与えること
人々が快楽をむさぼり堕落を極めたローマ帝国への否定から、イエス・キリストはキリスト教をおこした。彼らにとって神のもたらす調和と快楽=悪魔の誘惑は、光と闇の関係だ。音楽でも長調の安定した響きは神のもたらす調和とみなされたが、人の心を揺るがし陶酔させる短調の響きは悪魔の誘惑として排除された。
アフリカ音楽に由来する同じリズムの反復も禁じた。人を興奮させ悪魔のつけ入る隙をつくるからだ。初期のキリスト教が楽器の使用を禁じたのも、楽器の生むリズムが陶酔を呼び、人を踊らせるためだった(ロシア正教では今もパイプオルガンでさえ禁止)。彼らは踊りを伴う音楽は異教徒のもので人を淫蕩(いんとう)にさせると思っていた。昔の盆踊りや現代のクラブのように、人々が踊って心を解放することを嫌ったのだ。
私もドイツのバイロイト音楽祭でワーグナーの音楽に体を揺らしたら、周りの客から「シッ!」と注意された。現在のジャズやポップスにもアフリカ音楽のリズムがある。ラベルの「ボレロ」もそうだ。アフリカからキューバに渡った奴隷たちが編み出した「ハバネラ」のリズムがスペインに伝わり、定着して生まれた作品だ。