冨田宏治氏が喝破「大阪で維新を支持しているのは貧困層を憎悪する中堅サラリーマン層」

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冨田宏治(関西学院大法学部教授)

「ゆ党」と揶揄される日本維新の会の存在感が永田町で増している。総選挙では候補者を擁立した大阪府内の小選挙区を総ナメ。衆院第3党に躍進した。改憲勢力は衆参両院で3分の2を上回り、議論加速にもハッパをかける。「身を切る改革」と称して行政を縮小する新自由主義の権化を誰が支持しているのか。強さの原動力は? 大阪都構想の反対運動にも携わった専門家に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ーー衆院選の結果をどう見ていますか。

 維新については驚くほどの数字でもないし、小選挙区制がもたらす数字のマジックの側面もある。比例代表の得票数は約805万票と前回の倍以上ですが、橋下徹代表代行の下、国政選挙に初挑戦した2012年衆院選では約1226万票を集め、54議席を獲得した。希望の党とのすみ分けで小選挙区の候補者を降ろした前回17年とは打って変わり、全国に擁立したことから考えれば不思議ではない。ただ、自民党立憲民主党共産党が減らした計30議席をそっくり取った形なので、維新独り勝ちに映る。投票率上昇分の票が自民党に行かず、野党共闘にも向かわず、維新に途中下車したようには見えますね。

 ーー自民党のデタラメな大阪市政・府政に怒った「格差にあえぐ若年貧困層」が維新支持層といわれますが、冨田さんの指摘は全く違いますね。

 出口調査からも傾向が読み取れますが、維新支持層の中心は30代後半から50代の中堅サラリーマン層です。第2の経済都市なので、大企業の関西支社や大阪支店が集積している。全国から転勤族も含むサラリーマンが集まり、相当な数になる。都構想をめぐる15年の住民投票で、ガチの支持層を実感しました。

 ーーと言うと?

 住民投票は投開票日も運動できるので、維新は大阪市内の投票所300カ所に9人送っていたんです。3交代制で3人ずつ。オレンジ色のそろいのTシャツを着て。すごい動員力ですよ。一方、反対派は自民から共産までの烏合の衆で、SNSで情報交換しながら「〇×投票所に誰もいません」なんて書き込みを見て慌てて駆けつけ、有権者に反対をアピールしていたんです。僕は堀江の投票所でスタンディングをしていたのですが、周囲はタワーマンションだらけ。ラフな格好ながらどう見ても中堅サラリーマン風の男性が三歩下がって歩く奥さん連れで三々五々やって来て、維新の運動員に次々に合図を送って投票所に吸い込まれていく。一日中こんな光景を見続けたんです。愕然としましたね。僕も維新支持者は現状打破を期待する若年貧困層だと考えていたので。

 ーー「三歩下がって」は今どき珍しい気もします。

 要するに、彼らは転勤族なんです。専業主婦の奥さんや子どもとタワマンで暮らすような勝ち組。維新の主張は絵に描いたような新自由主義改革なのだから、彼らが支持していると考えた方が分かりやすい。それこそ、目からうろこでした。共に活動していた人たちもほぼ同じ感想でした。極端ではあるものの、彼らのメンタリティーを象徴するのが(元フジテレビアナウンサーの)長谷川豊氏の発言です。

 ーーブログに書き込んだ「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」ですね。1年後、維新公認で衆院選に出馬して落選しました。

 露骨すぎて喝采は送らないにしても共感はする。それが維新支持層の現実の姿だとみています。彼らはかなりの税金や社会保険料などを納めながら、健康に留意し、食事に気を配り、ジム通いなどで医者いらずの生活を送っている。かたや「自業自得の人工透析患者」は飲酒や塩辛い食生活の果てに健康を害し、保険診療を受ける。「年寄り」「病人」「貧乏人」はロクに負担をせず、白アリのように社会保障を食い潰している。そうした強い不満や敵意を維新のポピュリストにあおられ、増幅させているのです。

大阪の独特の街並みが分断を生む

 ーーなぜそうまで憎悪をたぎらせるのですか。

 そもそも大阪は貧しい街。夏休みなどで給食がない日は1日1食の子どもが2割もいる。格差を日々感じながら暮らしていると、そんな感覚に陥るのでしょう。街並みも独特です。市内に林立するタワマンの足元に、いわゆる長屋が地べたに張り付くように並ぶ。小泉構造改革以来、拡大し続ける貧困と格差が目に見える形で広がり、誰もがその存在を意識せざるを得ない。そうした環境が蔑みを生み、分断につながっていく。学生たちからも「今さら平等になっちゃ困る」という声を聞くこともあります。僕が暮らす都島区はカネボウの工場跡地にタワマンが立ち並んでいるのですが、文化住宅と隣接する地域は下水道整備がおろそかなため、大雨が降ると地べたの住宅のトイレが逆噴射する事例が報告されています。

 ーー映画「パラサイト」の見せ場のシーンのようですね……。

 学校統廃合で生じた空き地にタワマンが建ち、子育て世代がドーッと入居して、近隣の小学校が児童であふれ返る事例もある。最もヒドイのはあべのハルカス周辺。日本一の高層ビルの真下に飛田新地が横たわっている。光と影が混在するシンボル的地域です。維新政治の10年間で都市計画が機能しなくなった結果だと専門家が指摘しています。

 ーー新型コロナウイルス対策もメチャクチャです。医療崩壊の原因は「身を切る改革」とか言って医療機関を徹底リストラしたからではないですか。

 第4波の時は命が危ういと危機感を覚えました。大阪の死亡率は異常です。100万人当たりの死亡数は全国平均147人。大阪府は348人で、2.4倍。全国断トツのヒドさなのですが、大阪市は485人、3.3倍にも上る。こういうリアルな数字を総選挙までに浸透できなかった点は、僕も忸怩たるものがあります。維新が強かった理由は3つある。岸田首相が「新しい資本主義」を掲げ、選挙期間中に後退させたものの、新自由主義からの転換をほのめかしたこと。中堅サラリーマン層が支持する新自由主義の旗を掲げる政党が維新だけの構図になった。もうひとつは、コロナ禍での安倍・菅政権の体たらく。特に口下手の菅前首相と、口から先に生まれたような吉村知事は対照的で、吉村知事は失政を棚上げして政府批判。橋下氏も援護射撃し、それをテレビが垂れ流す。残念ながら菅前首相が引き立て役になり、維新に途中下車する票を膨らませた。それと、地方議員に支えられた圧倒的な組織力です。大阪府下の府会議員、大阪市議、堺市議、市町村議員は239人。対する立憲は20人、連合大阪推薦まで広げても68人。地方議会に強い共産党は142人です。

■「維新は選挙のプロ、モンスター的集票マシン」

 ーーいつのまに足腰を鍛えたのですか。

 府内のいたるところで年中選挙をやり、相互乗り入れする彼らは選挙のプロなんです。その際の1日のノルマは300人と握手、電話600本、10カ所で辻立ち。監視役が巡回し、活動を日々点検されます。239人×電話600本=約14.3万本。12日間の総選挙期間中にフル稼働すれば172万本。府内の比例票が約171万票なので合致します。地方議員の当選ラインは5000~1万票。平均7500票を239人が集めるとしたら総数は約179万票。これも比例票と合致します。候補者間で票を分け合う芸当もやってのける。企業訪問も徹底するドブ板で、モンスター的集票マシンと言ってもいい。ただ、大阪市内の得票限界線は67万~68万票ではないか。15年と20年の住民投票、15年ダブル選、19年クロス選は投票率が異なるのに得票は60万~69万票でした。総選挙は公明党との選挙区調整で市内の半分しか擁立しなかったのでややこしいのですが、全域に立てた仮定で試算すると66万票。大勝ちしたといわれていますが、得票に大差はない。大阪市内の絶対得票率24.4%から考えると、府内で215万票とってもおかしくはない。実際、吉村知事は226万票獲得しています。

 ーー維新が全国政党になる可能性はどうですか。

 兵庫に勢力を広げ、京都にもヒタヒタ迫っている。大阪市内の絶対得票率を全国換算すると2500万票です。潜在能力が現状の3倍と考えると恐るべき存在ですが、自民の1991万票超えは現実感に乏しい。組織を全国展開するのは並大抵ではないはずです。けれど、おしなべて若い候補者たちは上昇志向の強さが見て取れる勝ち組。競争好きの根っからの新自由主義者、自己責任論者ですよ。大阪の姿がこの国の未来になってはいけない。体を張ってでも大阪で維新を止めないと、全国に顔向けできない思いです

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽冨田宏治(とみだ・こうじ)1959年、名古屋市生まれ。名古屋大法学部卒。名古屋大法学部助手、関西学院大法学部専任講師、助教授を経て99年から現職。専門は日本政治思想史。原水爆禁止世界大会起草委員長も務める。「核兵器禁止条約の意義と課題」など著書多数。共著「今よみがえる丸山眞男」を今月上梓。

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