帰宅困難で電車を待つならJRより地下鉄 災害危機管理アドバイザーが解説
7日午後10時41分ごろに発生した千葉県北西部を震源とする地震は、東京・足立区や埼玉・川口市などで最大震度5強を記録した。東京23区での震度5強は10年ぶり。その影響でJRや私鉄がストップ。終電間際とあって、街にはタクシーを待つ人やあきらめてビジネスホテルを探す人があふれていた。今後1週間は、同規模の地震が相次ぐ恐れがあるという。万が一、帰宅困難に見舞われたら、どうするか。災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏に聞いた。
■あきらめたら徒歩かタクシーかそれとも…
JRと東京メトロが乗り入れる新橋駅。7日午後11時ごろ、JRの烏森口改札前は運行再開を待つ人が集まっていた。食事中に揺れに襲われた酔客は、「ゲッ、電車、止まっている」と遅ればせながら事態の深刻さに気づいたようで、「タクシー、タクシー」と仲間2人と一緒に第一京浜方面に走っていった。
記者は駅を離れ、第一京浜に向かうと、5メートルごとにタクシー待ちが。少しでも先んじようと、進行方向の後ろ向きに車道を歩く人もいる。が、走っているタクシーに「空車」の表示はない。「賃走」「迎車」ばかり。止まった車の表示が「支払」に変わると、タクシー待ちが「あれ、支払いが終われば、乗れるかも」と集まる始末で、タクシーをつかまえるのは厳しい状況だった。
実は、和田氏も仕事で新橋にいたという。自宅がある神奈川まで帰るのが大変かと思いきや、それほど遅れることなく帰宅できたそうだ。なぜなのか?
「スマホの速報で震度5強と分かった時点で、JRでの帰宅をあきらめ、銀座線で渋谷に迂回するルートに切り替えたのです」
その理屈はこうだ。
「震度5強以上の地震が起きると、JRも地下鉄も運行を停止します。再開は、沿線の安全確認を終えてからで、その安全確認に要する時間は、一般にJRの方が遅い。沿線にビルや歩道橋、看板などが多く、それらの落下物がないかどうかに時間がかかるのです。地下鉄は地上を走る部分以外は、その必要性が基本的にありません。線路や電線などの点検だけで済むため、地下鉄の方が安全確認が早いのです」
なるほど、3.11のとき、JRは当日中の運転再開を断念したが、東京メトロは午後8時40分、銀座線の全線、半蔵門線の一部区間で再開したのを皮切りに順次運転を再開。終夜運転を行っていた。
「震度5強以上で帰宅しようとするとき、JRと地下鉄の両にらみで運転再開を待つのではなく、可能な人は地下鉄で迂回するルートを考え、初動は地下鉄一本に絞って待つ方が早く帰宅できる可能性が高いのです。これは覚えておくといいでしょう。震度6弱でも、地下は耐震性が高く、早期の復旧が期待できますから」
地下鉄の迂回ルートで帰れる人はいい。それが使えない人はどうすればいいか。タクシーもダメ、ビジネスホテルも厳しいとなると、頑張って歩いて帰るか、街に残るか、それとも……。
滞留場所から自宅まで10kmが分岐点
「帰宅難民の会」は、徒歩帰宅訓練のデータを集計している。それによると、全体の平均速度は4.4キロ。しかし、距離が延びれば、疲労もストレスも増す。自宅までずっとこのペースをキープして帰れるとは限らないだろう。
「首都直下地震の被害想定では、滞留場所から自宅までの距離が10キロは全員帰宅可能としていて、10~20キロは被災者個人の運動能力の差から帰宅困難割合は1キロ遠くなるごとに10%増加すると仮定しています。そのため、20キロ以上は全員が帰宅困難です。日ごろからハーフマラソンを走るような人なら、20キロを歩くのは何とかなるでしょうが、10キロを超えて歩くのはかなりしんどい。7日の地震のように夜間はなおさらで、10キロ超の人は歩いて帰宅する以外の方法を考えるのが無難です」
■大規模商業施設で滞留するならアイマスクと耳栓
徒歩がダメなら、その場にとどまることを考える。繁華街で朝まで飲み明かせということでは、もちろんない。
「繁華街の大規模商業施設などは、規模に応じて帰宅困難者の受け入れを前提として、毛布や水などを備蓄しています。そういうところに一時避難するのが一つです」
たとえば、渋谷ならヒカリエやスクランブルスクエアなどだ。今回はそのような商業施設での帰宅困難者のサポートはなかったとみられる。政府によると、東京、神奈川、千葉で合計6カ所の学校の体育館などが開放され、帰宅困難者約120人が一時避難した。
当時の街の状況を考えると、少ないように思うが、再開した鉄道各社が遅くまで運行していたことで、街にあふれた帰宅困難者も疲れた体を電車に預けたのだろう。
「大規模商業施設は、駅に近いことが多いので、電車の運行再開を待つにも都合がいい。ただし、どこも明るく、うるさいので、万が一休むことを想定し、通勤カバンにはアイマスクと耳栓を用意しておくと効果的。少しでも目を閉じて休めるのと休めないのとでは、疲労回復の度合いが違いますから」
■会社に戻る。鉄道情報は公式ツイッターで
あてもなく街を歩いたり、寒い公園で始発を待つより、商業施設で横になる方がまだ楽だろう。 帰宅が難しいときの奥の手が、会社に戻ることだという。
「東日本大震災などを教訓に、帰宅困難者対策が進み、東京都は帰宅困難者対策条例を制定。大企業には、一斉帰宅抑制が努力義務として求められています。これは、災害時の消防や救急などの活動を妨げないようにする意味もありますが、これを応用すると、中小企業も耐震性の高いビルに入居しているなら、会社にとどまる方が無難ということです。特に夜間での被災で帰れないケースでは、会社に避難して一夜を明かすという判断はとても重要でしょう」
会社ならスマホの充電もできるし、冷暖房もあるだろう。大型商業施設や避難所よりは、より快適に休むことが可能だ。
「1日分の着替えとウエットティッシュ、携帯用ラジオは用意しておくといい。携帯用ラジオは、スマホの電池を消耗することなく、情報を得るためです」
◇ ◇ ◇
震度6弱では、道路規制がかかり、災害救助用車両の通行が優先される。今回は、それより小さい震度だったが、熊本地震のように余震の震度が最初の地震の震度を上回ることがありうるだけに、「地震のときのタクシーやバスでの帰宅は、いつ渋滞に巻き込まれても不思議ではないので、やめた方がいい」という。
つまり、帰宅困難に直面したときは、安全性が高く復旧の早い電車を確実に利用するか、安全にとどまる方法を模索するかに限るという。
その状況の中でも、やっぱり帰りたい。
「帰る方法をいち早くキャッチするなら、自分が使う鉄道会社の公式アカウントをツイッターでフォローしておくのが一番です。ユーザーの一方的な投稿に振り回されるのはよくありません」
できることなら、帰宅困難はゴメンだが、万が一のために頭に入れておこう。