創業63年の中華料理店(大阪・豊中)先代の味を後世に伝えたいという店主の心意気

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 おやじの味は、必ず残す。この舌がある限り、絶対に大丈夫や。負けへんよ。おやじの料理は、永遠に不滅や――。

 浅野佳幸さん(60)がそう誓ったのは、45歳の時だった。ステーキ料理で有名な大手外食チェーンに勤め、統括マネジャーとして活躍していた。

「店舗拡充の計画やメニュー開発。面白い仕事だった」

 しかし、脱サラを決意した。

 阪急宝塚線の服部天神駅。すぐ東側に「足の神様」で知られる「服部天神宮」が鎮座し、参拝客が絶えない。最近はひざの調子も悪くないが、せっかくなので小銭を放り手を合わせた。踏切を渡って西側へ歩く。約4分。「1958 パンダ食堂 晴山閣」の看板が見えてきた。

「書いてある年(1958年)に、おやじが大阪市内で店を開いたのが始まり。『晴寿司』という店の寿司職人だったけど、大将が『中華をやってみたらどうや』と。それで『晴』の字をもらって『晴山閣』。6年後、ぼくが7歳の時に豊中本町に移転したんだけど、周りは畑や竹やぶばかりで何もない。『こんな辺ぴな場所の店に誰が来るんや』と子ども心に思ったね」

「おやじの味を絶やしてはいけない」

 そして――。

♪こんにちは~こんにちは~西のくにから~。転機は1970年に開催された大阪万博だった。三波春夫の歌声が全国に響き渡る中、万博会場に近い豊中を中心とする北摂エリアは、田舎から都会へと変貌していく。インフラが整備され、住宅は林立。「晴山閣」にも多くの客が押し寄せ、超多忙を極めた。

「厨房はおやじ一人でやっているから、もう忙しくて忙しくて。学校から帰ると、宿題より先にまずタマネギやニンジンの皮むき。それが終わると妹の世話。おふくろは店を手伝っているから、銭湯に連れて行く。そんな時代だったね」

 そうして順調に業績を伸ばす中、浅野さんが冒頭の誓いを立てる時を迎えた。父親が体調不良を訴え、この先、中華鍋を握れなくなるかもしれないというのだ。

「おやじの味を絶やしてはいけない。この店を継がなくてはと思った」

 父親は料理について何も教えてくれない。いつも「まあ、こんなもんか」とひと言。だが、幼いころから親しみ、大好きだった父親の味はしっかりと覚えている。自分の舌に、こびりついて離れなかった。

 名物は「にらそば」。5種類の唐辛子にニンニク、香味野菜が入ったスープは、先代から続く秘伝の味。そしてギョーザ。独特の辛いタレで食べると箸が止まらない。6年前に本町から服部へ移転。その時に「大ファン」と公言するパンダの名を店名に加えた。

 浅野さんにはでっかい夢がある。

「ぼくは独身で子どももいない。だからこの味を、誰かに継いでほしいんです。ぼくが教えるし、お金も取らない。血のつながりなんか関係ありません」

 先代は10年前に鬼籍に入った。もし、浅野さんが脱サラしなかったら、きっと同じセリフを口にしただろうと思う。

(長浜喜一)

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