菅首相は相変わらず「お願い」連呼 2021年の精神論・根性論がニッポンをダメにしている

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 菅首相の新型コロナウイルス感染拡大防止対策は「ワクチン」一辺倒。みんながワクチンが打ち終わるまで我慢すれば明るい未来が見える――と訴えるが、SNSでは相変わらず「日本の政策は根性論だ」と批判されている。

  ◇  ◇  ◇

 コロナ禍による自粛生活も1年半になる。

 だが、相変わらず、政府の感染対策は我慢を強いるものばかり。先日も菅首相は〈何としてもこの危機を乗り越え、一日も早く日常を取り戻す。皆様のご理解とご協力をお願いいたします〉とツイッターに投稿。ほぼ毎日更新されるツイッターには「お願い」が続いている。お盆前には〈不要不急の外出を控え、やむを得ない外出の場合でも、家族や普段の仲間と少人数でお願いします〉〈ワクチン接種に全力をあげてまいります。国民の皆様のご協力を心からお願い申し上げます〉とツイートし、これに対し〈いい加減、根性論じゃなくてエビデンスに基づいた感染対策を実施してくれませんか?〉〈お願いっていつまで同じこと繰り返すの? いい加減方向転換して下さい〉といった批判コメントがあふれた。

 全国の自宅療養者の数は10万人を大きく突破。基礎疾患がない若い世代や無症状・軽症者には自宅療養をお願いする一方で、国民の批判を受けて医療従事者には通常医療の制限をしてでもコロナ患者を受け入れるように要請し、「従わなければ名前を公表する」などと強硬姿勢だ。

 東京五輪・パラリンピック開催に関しても、科学的根拠も曖昧なまま開催ありきで進んできた。そんな根性論・精神論が市民権を得られたのは1964年の東京五輪以降だといわれている。若き菅首相も感動した女子バレーボールの「東洋の魔女」を金メダルに導いた大松博文監督は“為せば成る”をモットーにスパルタ指導法を実践。その後、子供たちの間でも「巨人の星」や「アタックNo.1」といったスポコン漫画が人気となり、それまで「ひがみ根性」「盗人根性」とネガティブに捉えられていた「根性」はポジティブに変化していった。自分の実力以上の力を発揮したり、何かをぶち破るときは「気合」「根性」が必要という思想が広まったわけだ。

 サラリーマンも同様で、高度経済成長期は自分や家族を犠牲にして会社に尽くす「モーレツ社員」が持てはやされ、バブル期は「24時間戦えますか」と質より量の長時間労働が求められた。その結果、93年に日本は1人当たりGDPが世界3位(IMF調べ)にまで上りつめ、一心不乱に働いた努力は報われるという価値観が世間に浸透したといえる。

■柔道日本代表はがむしゃらな練習を否定

 しかし、今回のオリンピックを見ていると、なんだか違う。5つの金メダルを獲得した柔道男子日本代表の井上康生監督も、これまでのがむしゃらに走り、立てなくなるまで打ち込みを繰り返す練習法から、対戦相手のデータ分析などを取り入れ、選手個々に合った指導を行って結果を出した。

心理学では「意志の力には限界がある」

 MLBパドレスのダルビッシュ有投手も日本とアメリカのスポーツとの違いを「根性論」とし、〈厳しい状況に置いたほうがその選手の将来に生きてくると言う人がすごく多い〉と疑問を呈している。また、「スポーツ根性論」に関する論文も執筆した関東学院大学の岡部祐介准教授は、労働力としてみなされる人間の効率的な養成に、耐え忍ぶ、相手を打ち負かす「根性論」が利用されてきたと説明し、コロナの時代は通用しないと論じている。

 行動心理コンサルタントの鶴田豊和氏は言う。

「心理学では『意志の力には限界がある』と言われます。意志の力に頼るような精神論で進むと、多くの人はすぐに挫折してしまいます。それでも昔は選択肢が少ない中で乗り切ってきたかもしれませんが、現代では通用しません。結果を出すためには、個人の意志の力に頼らない仕組みや環境づくりが重要です。スポーツでいえば、科学的、効果的なトレーニング器具・場所、勝つために必要な情報、競い合うライバル、助け合う仲間、自分に合った指導者、応援してくれるサポーターなどです」

 具体的な効果が証明できない「グラウンド10周」といった一律のノルマを与えたところで、「この競技で世界一になる」といったモチベーションが生まれることはないという。サラリーマンも同じ。新しい価値観では、「この戦略じゃ無理」と思えばやめる勇気も必要だという。

「自分の限界を知った上でできるパフォーマンスをする。さらに自分がやりたいことであり、自分の強みを生かすようにすることで成功率が上がります」(前出の鶴田氏)

エビデンスがあってこそ「東洋の魔女」は頑張れた

 営業ひとつ取っても、初対面の取引先に電話するのが得意なタイプ、顔見知りの取引先と深く関係を築けるタイプがいる。同じことをやらせるのではなく、電話が苦手なら手紙を書かせたり、新規開拓ではなく既存営業の仕事を任せるのもひとつ。そこで部内や取引先との間で、自分のやりたいことを提案できたり、本人が「楽しい」と感じた方法なら結果が伴ってくる。

 同様の理論は、元陸上選手の為末大氏も著書「諦める力」のなかで説いている。

〈最高の戦略は努力が娯楽化することである。そこには苦しみやつらさという感覚はなく、純粋な楽しさがある〉

 先の岡部祐介准教授も、「東洋の魔女」を金メダルに導いた大松博文監督の哲学は本来、ただのハードワークではなく創造性との掛け算だったとしている。日本人は体が欧米人に比べて小さい。そのため回転レシーブという戦術を発明して強打に対抗できるようにした。

 選手もその意図を理解し、納得してハードワークできたのだ。

「納得」あっての「我慢」

 政府や都のコロナ対応にも同様のことがいえる。菅首相や小池百合子都知事に「我慢しなさい」と言われても響かないのは、説明にエビデンスがないからだ。コロナ疲れやコロナ慣れした国民には、科学的根拠や我慢した先の喜びを具体的に示さなければ納得できない。

 例えば、無理強いだけでなく、「8月中に全国民の4割が2回目接種を完了」の目標を達成したことへの謝意を伝え、さらに接種者が多い国ではどんな自由が待っているかを説明し、従ってくれたこと、我慢してくれたことへのおわびをする。そして国民の7割、8割が接種した暁には、いずれ「GoTo」を再開するとか、音楽イベントを支援するといった、具体的な喜びを示すことが必要なのだ。

 国民も「東洋の魔女」と同じで、「納得」さえさせてくれたら「我慢」できる。  

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