熱海では避難指示なし…土砂災害時の避難を惑わす「住民の誤解」7つ
土石流災害が起きた静岡・熱海では、避難指示が出されなかった。周辺で避難指示を出した自治体もある。犠牲者の中には、割れた自治体の対応の遅れで、命を落としたケースもあるかもしれない。実は、集中豪雨やそれに伴う土砂災害の避難をめぐっては、そこに住む人たちの誤解が避難の壁になっていることが少なからずあるという。
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「避難をめぐる誤解には、まずハザードマップの理解不足があります。その上で、避難そのものの誤解と自治体から出される避難指示の対応についての誤解が重なる。正しく避難するには、この3つを改善することが不可欠です」
こう言うのは、災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏だ。どういうことなのか。和田氏に聞いた。まずはハザードマップの理解不足だ。
「令和元年台風第15号・第19号をはじめとした一連の災害に係る検証レポート」(内閣府)によると、約半数が「ハザードマップ等を見たことがない」「見たことがあるが、避難の参考にしていない」と回答。見たことがあっても、「取るべき行動が分からない」「災害リスクが分からない」が7割に上る。
台風19号での死者のうち、ハザードマップで災害リスクが示されたエリア内が7割に上る。ハザードマップの理解不足を裏づける結果だ。
■とにかく身近な避難所へ
「浸水ハザードマップの場合、浸水するエリアと浸水の深さ、浸水継続時間などとともに避難所が記載されています。自宅からの避難を想定すると、自宅が浸水エリアに含まれるかどうか、含まれるなら浸水の深さはどの程度かを調べるのが一つ。含まれなければ、たとえ避難指示が出されても、自宅にとどまることが在宅避難になります。含まれる場合は、なるべく浸水リスクが低い経路を通って、浸水のない高台に避難するのがセオリーです。避難所が浸水エリアに含まれることもよくあるので、身近な避難所がベストの避難場所とは限りません」
台風19号のときは、リスクのある避難所に逃げたことで再避難を余儀なくされることがあった。
■小中学校の避難所しか分からない
「浸水想定区域の外で、鉄筋や堅牢な建物なら避難所や小中学校でなくてもいい。親戚や知人の家、ホテルや旅館などでも構いません」
熱海の土石流災害でも木造家屋は流されてしまったが、鉄筋の建物は何とか持ちこたえていただろう。
■浸水エリアから外れているから大丈夫
「ハザードマップには、浸水リスクを表示するもののほか、土砂災害リスク、津波リスクなどを表示するものもあります。浸水エリアでなくても、土砂災害に該当する可能性は十分ある。熱海のケースもそうでした。すべてをチェックして、避難することが大切です」
豪雨で避難するとき、浸水リスクの高いところを避けるだけでなく、土砂災害リスクも回避しながら逃げるのだ。
「切り崩した傾斜地をコンクリートで補強しているようなところは、大雨や地震などで崩れる恐れがあります。日ごろからそんなところをチェックして避難行動に応用するのです」
■自治体の避難指示を受けて動けばいい
警戒レベル4の避難指示は、全員避難を意味するが……。
「自治体の避難指示は遅れることがあるので、それを受けて行動するのは遅い。自宅が浸水エリアなら、警戒レベル3で避難の準備をして早めに避難するのが一つ。浸水エリアでない安全な場所なら、在宅避難でいい。この基本を誤解して、安全なところからあえて動いたがために、避難の途中に災害に巻き込まれる人がいるのです」
■高齢者等避難は当然、高齢者優先
一般に避難は、災害リスクの高い場所から安全な場所に逃げる立ち退き避難が基本。在宅避難は例外で、レベル3の解釈では、高齢者に続く「等」が重要だという。
「警戒レベル3は災害の恐れがある状況で、立ち退き避難に時間を要す人が動き出すタイミングです。その典型が高齢者ですが、ほかにもいます。要介護の人、若くてもケガをしている人、乳幼児や子供などがいる人など。もう一つ忘れてはいけないのが、自宅から安全な避難場所までが遠い人です」
■「命を守る最善の行動」といわれたら、すぐに逃げる
警戒レベル5の「緊急安全確保」になると、テレビのアナウンサーなどは「命を守る最善の行動を」と呼びかけるが……。
「この段階は、災害が発生しているか切迫している状況で、立ち退き避難するのはかえって危険です。ここで求められるのは、避難し遅れた人がとるべき次善の行動で、具体的には、建物のより上の階に逃げるなど。必ずしも安全が確保できるとは限らない状況ですから、警戒レベル4までの早いうちに避難することが大切なのです」
■急ぐときは車で避難する
水害が迫っているときはいち早く逃げたい。そのためには車が便利だが……。
「東日本大震災では、車で逃げる人が殺到し、渋滞が生じ、かえって逃げ遅れる事態になりました。あのときは地震による津波で避難の猶予がありませんでしたが、豪雨の場合は比較的時間的猶予がありますから、余裕をもって明るいうちに逃げることが大切です」
台風19号の死者のうち約6割は屋外で被災。その半数は、車での移動中に被災した。通勤途中の人も含まれていた。
「水害が発生もしくは迫っているような状況のときは、外出を控え、仕事をテレワークに切り替えることも大切です」
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表は、警戒レベルに応じた避難情報と防災気象情報をまとめたもの。どれも警戒レベル4までに避難するのが条件だが、和田氏は「警戒レベル4の避難指示を待ってはダメ」と断言する。ハザードマップを見たことがない人はレベル2までに確認した上で、レベル3に相当する情報がどれか一つでも出された時点で避難の準備を始めることが肝心だ。
ウェザーニュースによると、今年のゲリラ豪雨は来月中旬から下旬にかけてがピークだという。まだまだ用心だ。