「ジャックポットプランニング」社長・中川洋さんの巻<3>

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Bistro YEBISU(東京・恵比寿)

「おいしいもの? 旬の食材は、野菜も魚も味が濃いし、香りがあるでしょう。素材のよさをうまく生かして調理しているのが、おいしいものですね。そういう料理に出合うと、うれしいよね」

 こう言うのは、飲食業界55年のベテランだ。オイスターバーやイタリアンなど数多くの業態をヒットさせ、今なお「生涯勉強」と気になる店を耳にすると、あちこちに繰り出す。新業態や新メニューの開発に余念がないのだ。そんな重鎮が「ビストロの中ではイチオシ」と断言したのが、この店だ。

 恵比寿駅から駒沢通りを広尾方面に歩き、渋谷橋の交差点で明治通りを左折すると、ほどなくエビスビールの樽が目に入る。その扉を開けると、オープンキッチンに面した木目のカウンターがゆったりと広がっていた。

「フランス語のビストロは、おいしい料理が安くてたくさん食べられる大衆的な店ですよ。この店は、ビストロをうたっているけど、そのレベルじゃない。ミシュランで星が2つはついていそうな店。そんな実力シェフが、旬の素材を丁寧に調理してくれるんです」

 ふだんは、黒板に白字で書かれた20種類ほどのメニューから好みを注文する。パテやグラタンなどビストロではお馴染みのメニューだが、お邪魔した日曜日は1人8500円のコースのみだった。

「すみません。日曜日は娘を預けるところがなくて」とシェフ。そんなわけで1歳半の娘をホール担当の奥さんや常連さんがあやしながらの営業ゆえ、コースのみに。それはビストロの雰囲気だが、料理はおいしいの連続だった。

本場の星2つ料理がビストロ価格で食べられる

 スタートのオリーブに続いたのは、何とキュウリ。青々としてみずみずしい一本にクレソンや枝豆を添えている。ナイフで切ると、白くて薄いものが……。まとめてフォークで口に運ぶと、白の正体はイカだった。シャキシャキとしたキュウリに、イカがウマ味を加え、サッパリとしながらもコクがある。枝豆の風味もよく、なるほど、暑い夏のスタートに最適の一皿である。

 続く鮎のベニエは、衣がついて揚がっているのに、川を泳いでいるような盛りつけだ。鮎といえば肝で、その味の決め手はソースになって、お腹の部分に閉じ込めてあった。

 確かな技術と盛りつけの美しさに一皿一皿が大満足。次の皿が待ち遠しくなる。カウンターに並ぶほかの客も、皿が出るたびに笑顔がはじける。コースとはいえ、常連は好みに合わせて中身を変える、心憎い演出が施されていた。

「テーブルにはナイフとフォーク、最低限のカトラリーのみで、店内は無駄な装飾がないんです。一皿入魂の料理に集中できるのは、そのためでしょう。寡黙で丁寧なシェフに対し、奥さまは朗らかに接客されます。抜群のコンビのよさも、落ち着いて食事ができる要因ですね」

 口直しの3皿目は、桃とフォアグラの甘味と塩味、ウマ味の三重奏。キュウリといい、桃といい、組み合わせる食材に驚きがあって楽しい。

 シェフはオテル・ドゥ・ミクニやレカンなどの日本の名店で腕を磨いてから、フランスへ。本場の味を極めたのは、パリの2つ星ミシェル・ロスタン。本場が認めた料理を、カウンターキッチンでカジュアルに食べられるのだから人気も当然だ。

 アオサとワサビのリゾットは、和食の組み合わせでも、正真正銘のフレンチの仕上がりに。シメの牛カツは、トマトソースの酸味が牛のウマ味を引き立てる。

「お隣に出された料理が目に入ると、どれもおいしそうでね。本場の星2つ料理がビストロ価格で食べられるから、みんな欲しくなっちゃうんですよ」

 アラカルトは、大体1皿2000円ほど。アラカルトでの再訪を誓うのだった。

(取材協力=キイストン)

■Bistro YEBISU
東京都渋谷区東3―15―8
℡03・6427・3789

■ジャックポットプランニング
 オイスターバーやビストロ、ピッツェリアのほか和食店など23店舗を運営。酒や食料品の輸出入販売も。

▽中川洋(なかがわ・ひろし)
 1950年、静岡県沼津市生まれ。26歳で東京・下北沢に「ジャックポット」をオープン。88年11月、ジャックポットプランニングを設立。

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