「災害リスク」の常識を見直す!行政の避難指示は待たない、構築したいルールと組織と心構え

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 静岡県熱海市の土石流災害は、逢初川上流に積み込まれた盛り土の崩落が被害を拡大させたとみられる。再開発などで、盛り土は全国各地に広がる。吸収しきれないほどの雨が降れば、あの痛ましい悲劇がいつどこで繰り返されても不思議はないだろう。

 では、自宅や職場の周りの災害リスクを知り、どうやって避難するか。

 今回、注目されているのは、静岡県内の自治体の避難指示の有無だ。静岡や沼津など11市町には2日に「避難指示」が出されたが、被害が大きかった熱海や東伊豆町など5市町は、避難指示に次ぐ「高齢者等避難」にとどまっていた。最も強い「緊急安全確保」が熱海で出されたのは、3日の土石流発生から30分後だった。

 熱海も、静岡や沼津のように2日の時点で「避難指示」を出していれば、人的被害はより少なくて済んだのではないか。そんな指摘もあるが、「避難指示をめぐって自治体の判断がブレる可能性は今後も十分ありえます」というのは、静岡県庁防災局や下田市などで勤務経験がある防災・BCP(事業継続計画)アドバイザーの森健氏だ。現在は、自治体向け防災・BCP講座「BB.univ」の学長を務める。どういうことか。

 森氏に避難方法やその判断などについて詳しく聞いた。

「熱海の方々はテレビのインタビューに『今までにない雨でした』と口をそろえています。未経験の豪雨が局地的に、それも短時間で起こりうることは西日本豪雨や九州北部豪雨が示す通りで、そんなケースで行政の判断を待っていると、避難が遅れるのは相次ぐ大規模災害の教訓のひとつといえるでしょう。しかも、今回は避難指示の体系が5月にリニューアルされたばかりで、行政がその運用に不慣れな部分も重なりました。“ありえない豪雨”では、今後もそんなことが起こりうるので、避難指示を待たず、住民が率先して行動することが大切です」

 2018年の西日本豪雨では、大雨をもたらす線状降水帯が4日間で15も発生。平成最悪の被害をもたらした。2017年の九州北部豪雨では、1時間に100ミリを超える雨が流域に深刻な被害を与えている。悪夢は二度とゴメンだが、「こんなに激しい雨はもうありえないだろう」といった勝手な判断は通用しない。こと気象の激しさについては、最悪更新を前提とした方が無難だろう。

 が、行政の判断さえも遅らせるほどの悪天候時の避難基準を一般の市民がどう判断すべきなのだろうか。

「新しい避難指示の体系では、従来の『避難指示』と『避難勧告』が『避難指示』に一本化され、『避難準備』と『高齢者等避難開始』が『高齢者等避難』に置き換わっています。新しい体系では、『避難勧告』と『避難準備』がありません。この2ステップがないと、避難指示が出されたときに準備不足からアタフタして、逃げ遅れるリスクが高い。そこで、警戒レベル3の『高齢者等避難』の段階で、高齢者をサポートする家族や周りの人はもちろん、高齢者がいない若い人も、『避難準備』の段階であることを認識することが重要。で、準備を終えたら、高齢者もサポートする人も一緒に避難するのです」

町内会の班ごとに逃げる判断を下す人を決める

 警戒レベル3の「高齢者等避難」で準備を始めることを頭に入れても、ひとりではなかなか逃げられないという。

■正常性バイアスを断ち切るアノ手コノ手

「“ありえない”という思考が、“ありえないなら、正常の範囲内”と認識を狂わせるためです。心理学の正常性バイアスのことで、災害時はそれが強く働きやすい。この偏見を断ち切るには、日ごろから避難時の仲間をつくっておくのです。熱海のように戸建て中心のエリアなら町内会でまとまって防災に取り組む仕組みを日ごろからつくって、練習するのが大切。その場合、町内会長や班長など逃げるときのゴーサインを出す人を決めておき、その人の判断で班などがまとまって逃げるのです」

 逃げるときは、高齢者や子供が安全に行動できるように明るいうちに早くが鉄則。

 たとえば、子供の両親が仕事だとしても、町内会の横のつながりがあれば、子供は町内会のメンバーと一緒に避難させることができる。高齢の親も同様だ。仕事があるメンバーは、町内会の連絡を受けて職場から合流すればいい。

 逃げまどわないように町内会では、時々、防災について話し合う。どんなことをテーマにすればいいのか。

「防災訓練や町内会の打ち合わせなどの後に、最近起きた災害を参考に『もし町内で起きたら』を想定して、話し合っておくのです。たとえば、川の合流時点が危険だと報じられたら、それをもとに町内会での避難ルートを考えてみるなど、いろいろシミュレーションするのが効果的。避難グループがあって、話し合いをしておけば、イザというとき逃げやすい」

ハザードマップは“避難ののりしろ”に余裕を

 町内会などで話し合いのときは自治体が想定するハザードマップが下敷きになるだろう。使い方には、コツがあるという。

「たとえば、浸水被害を想定したハザードマップでは、浸水エリアや浸水の深さに加えて、浸水までの到達時間なども検討材料です。そのギリギリのところに避難するのではなく、距離も高さも時間も“のりしろ”にゆとりをもって設定するのがコツです」

■マンションは自主防災組織をつくる

 マンションである程度の高さなら水害の心配はない。耐震性もあれば、地震にも強い。そんなマンションなら、万が一でも在宅避難が可能だが……。

「安全なマンションでも理事会を中心としてフロアや班ごとにまとまる自主防災組織をつくっておくのは大切です」

 マンションの自主防災組織は、たとえば理事会の下に防災本部を置いて、さらに安否確認や情報収集を行う「情報班」、救出や救助、避難誘導、負傷者搬送などを担当する「救護班」、備蓄物資の管理や炊き出しなどをする「物資班」、建物・設備の点検や防火などをチェックする「安全班」などに分けて、各フロアごとに班のメンバーを決めたりして、年に何度か防災訓練を行う仕組みだという。

「私がかつて住んでいたマンションでも、自主防災組織がありませんでした。仕事柄、組織づくりをサポートしたのですが、そういう仕組みがないと、マンション内でパニックが生じ、ケガや事故などが起きやすいのです」

 マンション暮らしは快適だが、コミュニティーのつながりが薄い。横のつながりがないまま右往左往して避難所に殺到したら、避難所がマンション住民でパンクする。そんな事態を避けるためには、マンションに防災組織をつくっておくことが大切だろう。

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