「サカナバル」も展開 「アイロム」社長・森山佳和さんの巻<3>
酒家 の元(東京・恵比寿)
JR恵比寿駅西口を出て駒沢通りを背に坂を上ります。恵比寿南二公園を越え、住宅街の真ん中にあるのが、こちら。知らない方が偶然、この店に出くわすことはまずないでしょう。そんな静かなエリアにありながら、知る人ぞ知る和食の名店です。
渋谷の名店「並木橋なかむら」で腕を磨いたご主人は、この道20年以上のベテラン。人気店で複数の店舗をマネジメントし、メニュー開発を担当しただけあって、センスがいいのです。メニューはお任せで、お腹のすき具合によって品数をアレンジしてくれます。
腹ペコでお邪魔したときに出された前菜3皿のうちのひとつは、干し豆腐の和えもの。干し豆腐は豆腐を干してそうめんのように細く切ったもので中華の定番食材です。これにパクチーなどを刻んで辛めの中華ドレッシングをかけると、中華そのもの。ご主人は菜の花やアサリなどと和えていますから、あっさりとした風味になっています。
和と中華 そのバランスとセンスのよさ
カニの茶碗蒸しは丁寧なダシをとってあり、ポテサラにはマカロニをほどよくしのばせてあるのがいい。洋ガラシをほのかに利かせたポテサラは大人の味わい。3皿の味のバランス、アクセントのつけ方もすばらしいのです。
「ビールに合いますよ」
3皿を食べ終えたころスッと出してくれたのは厚切りのハムカツです。いきなり4皿も? どれも小皿の一口サイズなので、ペロリといけます。小さくても、肉に食らいつく醍醐味。ビールが進みます。
刺し身はブリとメジマグロとホタテで、ホタテは塩で。この辺になると日本酒です。日本酒は1合900円~。こちらも料理に合わせて、みつくろってくれます。1合なみなみと注いでくれますからオトクです。
続く皿は牛しゃぶで、添えたゼンマイが鮮やかな緑で春らしい。火入れも絶妙で、うっすら赤身を残した感じがいい。歯ごたえよく、肉のウマ味が広がるのです。
スペシャリテの焼売は豚タンで
これに続くのは、中華的な料理です。ひとつは春巻きで、餡にはメヒカリを使っていて、口当たりがあっさり。そこに大葉でしょうか、風味もバッチリです。これを食べたら、「通常の春巻きよりこっち」という人が相次ぐでしょう。
もうひとつの焼売は豚のタンを閉じ込めているのです。時々コリッとするのは豚の耳かな。豚のさまざまな部位のウマ味を凝縮。それ以外の食材はタマネギだけというシンプルさ。
見た目は、どちらも中華の定番そのものですが、ウマ味の乗せ方は和食のそれ。あっさりとしながらも、しっかりと食材の味を感じさせます。
中華料理の経験はないそうです。食べ歩いて覚えた味をうまくアレンジして表現しています。このセンスのよさ!焼売がスペシャリテなのも納得です。
口直しには、アンキモやコウナゴといった酒飲みにはたまらない皿が。「アンキモは、意外と冬よりこの時季の方が上等なのが入るんです」というように甘さが抜群。すべての皿に丁寧な仕事が施されています。
シメに出てきたのは牛筋カレーです。スパイスの複雑さを感じつつも、そこは和食のベテラン。優しい味わいです。ご主人がカレー屋を出せば、繁盛すること間違いなしでしょう。食事の量にもよりますが、食べて飲んで大体8000円前後。重宝する店です。
(取材協力・キイストン)
■酒家 の元
東京都渋谷区恵比寿南2―17―1 RYビル1階B号室
℡03・6303・4355
■アイロム
恵比寿、六本木、川崎で地元に親しまれる「サカナバル」を営業するほか、渋谷にダイニングバー「BEE8」も展開。コロナ対策で缶詰事業にも着手している。
▽森山佳和(もりやま・よしかず)
1977年6月24日、横浜市生まれ。デザイン専門学校を卒業後、転職を経て飲食業界へ。エリアマネジャーとして経営ノウハウを蓄積して独立。魚に特化した洋食業態を開発し、店名でもある「サカナバル」は商標を取得している。