主人はミシュラン一つ星「神楽坂くろす」 女将黒須ゆきこさんの巻<5>
串焼 てっ平(東京・新宿)
こちらは、ウチの向かいにある焼き鳥屋さんです。大将の人柄がとにかく良くて、とてもお世話になっています。用意していたお酒の注文が重なってなくなったりすると、時には大将にお借りしたりして。
家族みたいなお付き合いをさせていただいているので、夜の営業が早めに終わると、店先でご挨拶して、迷惑にならない様子ならお邪魔します。大将に「お疲れさま」と言われると、何となくホッとするんです。
■大将はこの道47年、焼き鳥はしっとり
大将は「学がないから、焼き鳥を焼くくらいしかできないんですよ」と笑ってらっしゃいますが、そんなことありません。場を和ませる会話を織り交ぜながら、絶妙な焼き加減で出される一串一串に「さすがベテラン」とうなってしまいます。
いつもお願いするのはおまかせ8本のコース。小鉢とスープ、焼きおにぎりなどがついて3500円。この日の小鉢は、ピリ辛のタレを添えた棒々鶏風の一品。初めての方なら、鶏のしっとりとした食感に、期待が高まるでしょう。
ちょうど小鉢を食べ終えたタイミングで、「まずはアスパラ巻きね」と大将。アスパラはシャキシャキとしながらもみずみずしさを残し、豚のウマ味がしっとりと。
続くハツをいただくと、元気に育てられたことを感じるような弾力としなやかさです。いわゆるコリコリ感ではなく、しなやかさなんです。うずらとシシトウ、長ネギ、ピーマンの一串もそう。野菜はシャキシャキ感や素材の甘味が引き出され、うずらはしっとり。店を開いて27年の歴史を感じさせる古民家の雰囲気と相まって、とても落ち着きます。
手羽先は皮目がパリッとしていて、身からウマ味がじゅわっと。タレでいただくレバーは、ほどよい焦げ目が香ばしく、口に入れると優しい味わいが広がります。
この店を開く前には、六本木で20年間腕を磨いたそうです。ということは串を打つこと47年。50年近い経験ですから、ハズレはありません。すべてアタリです。
ハズレなし、演出力抜群
豚肉にしそを巻いたしそ巻きは見て美しく、しその香りがたまりません。ネギマ、つくねでフィナーレを迎えます。ネギマだって、あの火入れの具合は何なのでしょう。肉汁が口に広がり、真骨頂はつくねです。たたき過ぎず、ほどよい食感を残すことで、かみしめた時に充実感が楽しめます。改めてつくねをお代わりされる方がいるのも納得ですね。
いろいろな部位を楽しめる煮込み(500円)も外せません。
コースがスタートすると、焼き台の遠いところにおにぎりをセットしています。じわじわと火を入れながら、コース終了のタイミングを計っているのです。ですから串が終わると、さっと出されます。トータルプロデュースも演出力抜群なんです。
その焼きおにぎり、梅干しとワサビが添えられています。おにぎりと一緒に食べてもよし、スープに入れてもよし。「気取った店じゃなく、決まりはありません。お好きなように」と大将はいつも笑顔です。
(取材協力・キイストン)
■串焼 てっ平
東京都新宿区津久戸町3―5
℡03・3235・1468
▽神楽坂くろす 日本料理の伝統をしっかりと踏まえつつ、ときに自由に。主人の黒須浩之氏は、現ハイアットリージェンシーやザ・リッツ・カールトン東京などで腕を磨く。リッツの日本料理店「ひのきざか」は2008年から3年連続で「ミシュランガイド東京」1つ星を獲得。12年1月に開店。
▽くろす・ゆきこ 神楽坂くろすの女将。女将になる前は銀行で働く。好きな食べ物はイタリアンや肉料理。