「なかめのてっぺん」など運営「MUGEN」内山正宏代表取締役の巻<4>
ちゃんこ 玉勝(東京・入谷)
こう暑いと、冷たいものが欲しくなりますが、体を冷やし過ぎるのはよくありません。しっかりと栄養をつけるには、温かいものを。ということで、今回は力士のパワーの源であるちゃんこ鍋の名店をご紹介します。
玉勝さんは、JR鴬谷駅と東京メトロ入谷駅の間、根岸3丁目交差点の入谷口通り沿いにあり、赤い提灯が目印。今年3月、新型コロナウイルスで亡くなった志村けんさん(享年70)が足しげく通った店として知られ、ご存じの方もいるでしょう。
メニューは1つ、ちゃんこ鍋のみ。お通しとレンコンの肉詰めを食べ終えると、コンロの上に置かれた鍋にはニラがぎっしりと山盛りに(写真①)。ほかに白菜やホウレンソウなどの野菜がたっぷりと盛り込まれていて、奥の様子がうかがえません。実はたっぷりの伊達鶏と豆腐が眠っているのです。
仲居さんが山頂にフタをしてギューギューと野菜を閉じ込め、強火で煮込むこと5、6分でしょうか。鍋とフタの隙間からスープが染み出てきたころに、仲居さんがフタをとると、山が崩れてぺしゃんこに(写真②)。
「野菜は火が通っていて召し上がれますが、鶏肉はまだですよ」と箸でしんなりとした野菜をかき分けると、鶏肉はまだ赤く、火が通り切っていませんでした。
「タレをよくかき混ぜて野菜から召し上がってくださいね」
ニラがおいしい。軟らかくて甘くて。種をまいて最初に生えた一番ニラというもので、よく食べなれているニラとは食感も味も別もの。しばらくして、「お肉もどうぞ」の合図で鶏肉もタレにつけていただくと、あれほど強火でグツグツ煮込まれたにもかかわらず、まったく硬くなっていません。ジューシーでウマ味たっぷり。
特製のタレは、しょうゆベースで青のり、長ネギ、一味唐辛子のほかに伊達鶏の卵が(写真③)。何度もつけているのに、薄くならず、いつしかユズの風味も感じるようになるのです。簡単に見えて、とにかく複雑。
かなりのボリュームでも、ペロリといけます。1回目を食べ終えると、2回目は豆腐なしのたっぷり野菜。「お肉も追加されますか?」の問いかけに「もちろん」で、1人前を追加。出てきたのは、丼いっぱいの鶏肉たち。最初の鍋には、友人2人とお邪魔したので、その2杯分が入っていたことになります。小さく見えた鍋ながら、かなりの肉を食べた気がしたのも納得です(写真④)。
店の大将によれば、志村さんも夏によく訪れていたとか。お代わりの野菜も、シメのきしめんとお餅もペロリと平らげていたそうです。亡くなる10日前には、病床から大将を気遣って、事務所のスタッフが様子を見に訪れたといいますから、心の底からこのお店を愛していたのだと思います。
ちゃんこ鍋コース1人前6500円。この価格は高いように感じるかもしれません。でも、単純そうに見える料理の中に、実は厳選された素材と大将の技術が詰まっているのです。夏バテ気味の皆さん、志村けんさんが愛したちゃんこ鍋でパワーをチャージしてみてはいかがでしょうか。
(取材協力・キイストン)
■ちゃんこ 玉勝
東京都台東区根岸3―2―12
℡03・3872・8712
■MUGEN 飲食店の運営のほか、消費者と生産者、仲卸などをつなぐ事業、食品リサイクルなどにも力を入れる。炉端焼き店「なかめのてっぺん」を中心に、寿司や天ぷら、カニ鍋など17店を展開。
▽うちやま・まさひろ 1974年生まれ。幼少のころから両親に連れられて割烹料理店で味覚を鍛えられた。調理師学校卒業後は、横浜のロイヤルパークホテルや老舗料亭、銀座の居酒屋などで飲食店経営のノウハウを習得。2006年、独立する。