三遊亭好楽さん 一抱えほどもある大鍋で作っていた団子汁
落語家・三遊亭好楽さん(72)
「あの団子汁、また食べたいよなあ」
兄弟子たちがね、ことあるごとにこう言うんですよ。「本当にうまかったよ、お母さんの団子汁。今でも夢に出てくる」って。こうまで言ってもらえて、8年ほど前、96歳で亡くなったおふくろも草葉の陰で喜んでると思います。
アタシんちの名物料理の団子汁は物心ついた頃からおふくろが一抱えほどもある大きな鍋でよく作ってくれました。実は熊本の郷土料理だそうです。熊本県大津町出身の両親にとっては故郷の味です。それぞれの家庭で作り方が違い、団子汁のネーミング通り、よく練ったうどんを麺棒で延ばさないで、指で適度な大きさにちぎって鍋に放り込んだっていい。ウチは団子とはいっても、きしめんを少し太くしたうどんでした。
我が家は8人きょうだい。アタシは46年8月6日、巣鴨プリズンと呼ばれた巣鴨拘置所の近所、豊島区西巣鴨1丁目(現・東池袋5丁目付近)で、上から6番目の四男に生まれました。ところが、5歳の時、末っ子が生まれて間もなくでした。警視庁の警部だった親父が急死しまして、さあ大変。おふくろはいくつかの仕事を掛け持ちし、高校2年の長女が都庁でアルバイト。他のきょうだいも新聞配達で家計を助け、アタシも小3から中学卒業まで手伝ってました。
■友達に「一緒に食ってけ」
おふくろは忙しいから手間のかかる料理なんて作れません。だから、団子汁とかカレー、おでんといった大鍋でまとめて作れる料理は重宝したんでしょうね。
おまけに気がいいもんだから、友達がいると「一緒に食ってけ」って振る舞っちゃう。新聞配達店の仲間もよく来ました。みんな地方から出てきた苦学生で、いつもピーピーしてるから「栄養つけなきゃ」って。
そいでアタシが落語家の修業に入ると、酒を飲むたんびに兄弟子たちが泊まりに来たんです。家に帰るのが面倒くさいってのもあるけど、お目当ては団子汁。飲んだ後のすきっ腹に、味噌汁と半分溶けて形がなくなりかけたうどんがジーンワリ染みるんですよ。
そして翌日。残った団子汁の奪い合いです。うどん(団子)に味噌が染みて、まあおいしいのなんのって、話をしてたらまた食いたくなりました(笑い)。