中咽頭がんから復帰したギタリスト西村智彦さん「ショックよりも納得感があった」

公開日: 更新日:

西村智彦さん(Sing Like Talking ギタリスト/59歳)=中咽頭がん

 喉の違和感は2021年5月くらいから感じていました。もともと扁桃肥大で、良くなったり悪くなったりしていたんです。

 ツアーのリハーサルが終わった頃、ふと首の後ろにしこりがあることに気づきました。1センチに満たないくらいのものがポコポコと2つ。ネット検索してみると、「かたくて動かないものはがんの可能性がある」なんて書いてあるもんだから、「やばい?」と思いながらも、しばらく様子見していました。

「う~ん、どうしたものかな?」と躊躇していると、6月下旬にはみるみる大きくなってきて……。決定的だったのは7月に入ってすぐ、自宅で倒れたことです。立ち上がった瞬間にグラッとなって過呼吸とひどい頭痛を伴っていました。

 わけがわかりませんでしたが、1人暮らしなので意識がなくなったら誰にも気づいてもらえないと思い、夜遅い時間でしたが救急車を呼びました。救急隊が来て血中酸素濃度を測ったら何パーセントだったかな? とにかく危険レベルだったので、すぐに救急車に乗せられました。でも、当時はコロナ禍で受け入れ先の病院が見つからない。そのうちに頭痛が治まり、酸素濃度も正常になったので、救急隊の人から「どうします?」と言われまして、その日は自宅に戻りました。

 でも、その数日後に再び夜中に自宅で倒れました。今度は鼻血を伴っており、また救急車を呼びました。血中酸素濃度はやはりかなり低い。「首のここにしこりがあるんですけど、関係あるかな」と救急隊員の人に言ってみましたが、「何とも言えない」とのこと。その時も病院が見つからず、前回同様、症状が落ち着いて病院には行けずじまいでした。

 受診できたのは、その後に友人とお酒を飲んだのがきっかけでした。しこりやそれまでのことを話したら、友人がその場で知り合いの医師に電話をしてくれて、受診の予約までしてくれたのです。

 友人と川崎にあるそのクリニックに行ったのは7月13日。問診から不穏な空気が漂いました。CTを撮ると「造影剤だ!」と周囲がざわざわして、造影剤を入れてCTを撮ったと思ったら、午後は耳鼻科に回されました。そこで内視鏡を入れられた結果、「間違いなく『がん』です」と告げられ、大学病院を紹介されました。「ご家族と一緒に行ってください」と言われた時には、「キタキター、来ちゃったな」と思いました。

 でも、ショックよりも「そうか」という納得感がありました。大きくなるしこりや、急にぶっ倒れるなんて今までにないことだったので、なにか重大なことが起こっている気がしていたのです。その後すぐにイベント会社の社長に連絡したところ、「がんだったらここ(某大学病院)が良い」ということでいろいろと手配していただいて、家族(妹)と一緒にその大学病院を訪れたのは7月17日でした。

 さらなる検査をし、正式に「中咽頭がん」と診断されました。それもステージ4b。最悪の状態です。腫瘍が10センチで、頚動脈を包んでいるからこのままでは手術できないうえ、進行がんであることを告げられました。

「回復がすごく早い」と褒められた

 さらにさまざまな検査を経て入院したのは7月25日で、28日からシスプラチンという抗がん剤の点滴治療が始まりました。1週間入院して点滴し、2週間自宅で休むを1セットとして、3セットで1クール。1クール終わるとがんの様子や体調をチェックして、薬を替えながら合計2クールやりました。

 抗がん剤の副作用はハンパなく、初回から食事のにおいで「うっ」となりました。お湯を飲んでも吐きそうになるくらい……。1クール目が終わった時にはモノの味がわからなくなりました。

 でも、その時点で医師から「1センチまで小さくなりました」と驚きを持って伝えられました。2クール目には、同時進行で放射線治療も始まりました。1カ月もすると皮膚がやけどのようにただれましたが、2クール終了後は、肉眼では見えないくらいになって、治療は一応終了しました。

 ただ去年、喉の横にまたしこりができたんです。6月にPET-CT検査で肺に若干赤みがあったので、再度強い抗がん剤をして6月末に手術でしこりを取り除き、7月に退院したんですけど、採取した検体を調べたら“がんの死骸”でした。とても珍しいもののようです。

 放射線科の先生には「回復がすごく早い」と褒められ、リハビリに頑張っています。今は1年に1回、経過観察中です。 2年前に自分のせいで中止になってしまったライブのことがずっと気がかりだったのですが、この9月にまったく同じゲストが集まってくれて、リベンジライブができることになりました。なんか「ありがた申し訳ない」というか、「申し訳ありがたい」とでも言いますか、本当に感謝の念に堪えません。

 思えば、治療中は仲間たちが独身の自分を気遣って、入退院のたびに激励会や壮行会(?)をして気持ちを盛り上げてくれました。体はヘロヘロでしたがうれしくて、「死んでられねぇな」という心持ちになれました。グループのメンバーを含め、つくづく自分は人に恵まれているなと思います。これも感謝の気持ちでいっぱいです。

 おかげさまで、今年に入って味覚が辛いもの以外は元に戻りました。48キロまで激やせした体も元通り。というか、元を超えてしまいました(笑)。 (聞き手=松永詠美子)

▽西村智彦(にしむら・ともひこ) 1964年、青森県出身。88年に幼なじみの佐藤竹善、藤田千章とともに「Sing Like Talking」のメンバーとしてデビュー。おのおのソロ活動をしながらバンドを継続し、今年でデビュー35周年を迎えた。9月には35周年記念ライブが開催される。「Sing Like Talking オフィシャルサイト




■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  2. 2

    巨人50億円補強を前に既存戦力に“大盤振る舞い”のウラ…丸佳浩、山﨑伊織にオコエ瑠偉まで笑顔の契約更改

  3. 3

    大逆風の田中将大まさかの〝浪人〟危機…ヤクルト興味も素行に関する風評が足かせに

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    補強?育成?ソフトBまさかの日本シリーズ惨敗で大混乱…物議を醸した《支配下7人クビ》のひずみ

  1. 6

    八村塁が突然の監督&バスケ協会批判「爆弾発言」の真意…ホーバスHCとは以前から不仲説も

  2. 7

    「エンゼルス佐々木朗希」誕生へ…菊池雄星との大型契約&異例の早期決着で獲得に布石

  3. 8

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  4. 9

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  5. 10

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース