<87>早貴被告はドン・ファンの簡単な祭壇に一度も手を合わせなかった
「参っちゃったわよ」
夕方近くに戻ってきた大下さんが口をとがらせた。
「また携帯電話を没収されてしまって……。ないと不便だから」
警察は事件直後に携帯電話を押収して、3日ほど経ってから返し、その翌日に再び押収した。返却された後で誰と連絡を取ったのか調べるつもりなのだろう。
「警察では何を聞かれたの?」
「同じことよ。24日の夜のことを詳しく聞かれたわ」
「私も同じです」
早貴被告もうなずいた。すると仕事終わりのマコやんがやって来た。
「会社のことやけど、早貴ちゃんはどう思ってる?」
ソファに腰かけたマコやんが聞いた。