著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ちぇすなっと(大阪・豊中)70年分の「こどものとも」などあっぱれな品ぞろえ

公開日: 更新日:

 いいな~、この空間。入るなり、同行カメラマンさんともども、笑みがこぼれた。ユーズド風の柱や梁と、草色と茜色に彩られた一部スペース。色調豊かな絵本と児童書と暮らしの本がずらり。15席のテーブルもゆったり配置されている。

「父が建築家なので。頼むと、こうなりました」と丹治未来さん。夫・悠さんと2020年から営む、古絵本とコーヒーの店だ。

 なぜ古絵本屋を?

「今8歳の上の子が小さい頃、母子で図書館通いをして、絵本にハマっちゃったからです。それにその頃、夫が忙しい勤め人だったので、ほぼワンオペ育児。もうイヤ、2人でできることを仕事にしたいと」と未来さんが言えば、悠さんも「最初はてらいがあったのですが、絵本を読んで子どもが喜んでくれるのはすごくうれしいですよね」。古絵本とコーヒーの店を、と決めてから2人で探し回り、自宅から自転車で30分のこの物件にたどり着いたそう。

オススメ13冊を選んでくれる「選書えほん便」

 悠さんの前職は、アウトドアショップ勤務。未来さんはチルドレンズミュージアム勤務。夫婦とも自営は初めてだが、「底力を出しましたねっ」と思わず。柔軟に対応可な仕入れ先を確保。品ぞろえも客対応もあっぱれなのだ。

 約60平方メートルの店内に、私の推定約1万冊。永遠の名作「ぐりとぐら」や「はじめてのおつかい」が目につき、足を止めていると、「どちらも、福音館書店の月刊誌『こどものとも』が初出です」と未来さんの表情が勢い輝きを増した。

「『こどものとも』は1956年創刊。『年少版』『年中向き』『かがくのとも』など7種類ほどあり、人気が出ると単行本絵本になるようです」

 な、な、なんと、ここには50年代~現在の「こどものとも」が約2000冊。そろいにそろっている。よく売れるという年少版「なつをみつけたよ」や単行本になった「エンソくんきしゃにのる」を見せてくれ、開くと、私もほしくなる。

 そして3年前に始めたという「選書えほん便」が素晴らしい。メールや対面で、子どもの嗜好などを伝えると、その子に勧めたい絵本13冊を選んで送ってくれる。送料込み1万円。注文は東京からも入るばかりか、幼稚園、保育園、病院などからもくる。ってことは、未来さんの選書のすごさたるや、なのだ。

 コーヒーを飲みながら、絵本をめくる。ゆるりとした時間が流れている。

◆豊中市岡町南1-6-13-101/阪急宝塚線岡町駅から徒歩4分/10時半~17時、日・月曜休み

ウチの推し本

「ちいさいヨット」ロイス・レンスキー/文・絵わたなべしげお/訳

「ちいさいじどうしゃ」「スモールさんののうじょう」など、“スモールさん”シリーズの一冊。「スモールさんが、ヨットに乗ります。釣り竿を垂らすと大きな魚が釣れ、喜びすぎて海の中に落ちて、気持ちよく泳ぎます。最後は無事に帰ってきます。そんなお話が感情を入れずに描かれているんです。カラー刷りのものも出ていますが、これは1971年刊の2色刷り。希少です」

(福音館書店 古本売値1800円)

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