著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「キャンディ・キャンディ」(全9巻)水木杏子原作 いがらしゆみこ作画

公開日: 更新日:

「キャンディ・キャンディ」(全9巻)水木杏子原作 いがらしゆみこ作画

 伝説の漫画だ。総発行部数1200万部。ほかの超ヒット作と比べると数では見劣りするが、これは後に版権問題で絶版になったから。この絶版騒動も含め人気ゆえの揉めごとであり、すべて含めて伝説だと私は言う。

 講談社「なかよし」での漫画連載は1975~79年。この連載時点ですでに人気が出ていたが、76年からアニメ化されるとさらに爆発的ブームとなった。

 78年「好きな漫画アンケート」で小学生の1位、中学生でも2位という高支持率を得た。驚くべきはこれは女子だけのアンケートではなく男子も含めてのものだったことだ。

 少年漫画が少女に受けることはままあった。しかし少女漫画が男子にここまで人気になったのは初めてであった。社会現象といってもいい。

 この漫画はある意味で仕組まれたものだった。もちろんあらゆる漫画連載に戦略があるが、本作はもっと具体的なものだった。原作者に水木杏子、作画にいがらしゆみこを据え、「ローズの季節」「あしながおじさん」「赤毛のアン」の3つをベースにして「圧倒的なベストセラーを作る」ための議論が担当編集者をまじえて繰り返された。この3本のベースによって、これまでの日本にない西洋的な恋愛模様が描かれた。

 かつてより日本の恋愛物語は一途で道筋ひとつで終わるのが定番ともいえた。しかし本作は主人公キャンディの恋心がミツバチの花の間の飛行のように次々と変わっていく。裏切ったわけでも二股をかけたわけでもなく運命に弄ばれたのだが、相手が消えれば次、さらに次と移っていくのである。

 アンソニーへの恋心の前に、小さな頃に出会った“丘の上の王子様”という憧れの人がすでに存在していた。アンソニーはその代替のように描かれている。アンソニーが不慮の事故で死んだあと、今度はテリーという不良がかった相手が登場する。しかし彼と別れたあと、ひげもじゃの素浪人アルバートさんとの不思議な関係が続く。そして最後の大どんでん返しで、運命の相手と結ばれる。

 小中学生のみならず、高校生や大学生、さらにはOLやサラリーマンの心まで虜にした本作品が、それまで画一的で旧弊だった日本の恋愛の在り方に疑念を投げかけ、若者たちの恋愛観を根こそぎ変えてしまった。

(講談社 品切れ重版未定)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「ダウンタウンDX」終了で消えゆく松本軍団…FUJIWARA藤本敏史は炎上中で"ガヤ芸人"の今後は

  2. 2

    大阪万博「遠足」堺市の小・中学校8割が辞退の衝撃…無料招待でも安全への懸念広がる

  3. 3

    のんが“改名騒動”以来11年ぶり民放ドラマ出演の背景…因縁の前事務所俳優とは共演NG懸念も

  4. 4

    フジ経営陣から脱落か…“日枝体制の残滓”と名指しされた金光修氏と清水賢治氏に出回る「怪文書」

  5. 5

    【萩原健一】ショーケンが見つめたライバル=沢田研二の「すごみ」

  1. 6

    中居正広氏の「性暴力」背景に旧ジャニーズとフジのズブズブ関係…“中絶スキャンダル封殺”で生まれた大いなる傲慢心

  2. 7

    木村拓哉の"身長サバ読み疑惑"が今春再燃した背景 すべての発端は故・メリー喜多川副社長の思いつき

  3. 8

    大物の“後ろ盾”を失った指原莉乃がYouTubeで語った「芸能界辞めたい」「サシハラ後悔」の波紋

  4. 9

    【独自】「もし断っていなければ献上されていた」発言で注目のアイドリング!!!元メンバーが語る 被害後すぐ警察に行ける人は少数である理由

  5. 10

    上沼恵美子&和田アキ子ら「芸能界のご意見番」不要論…フジテレビ問題で“昭和の悪しき伝統”一掃ムード