「妊娠したら、さようなら」吉水慈豊著

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「妊娠したら、さようなら」吉水慈豊著

 ここ数年、ベトナム人技能実習生による新生児遺棄事件が相次いだ。孤立出産の末の悲劇だった。彼女たちはなぜそこまで追い詰められてしまったのか。ニッポンは妊娠した技能実習生を切り捨てる性差別大国であることを多くの事例を交えて伝え、関心を喚起する切実なノンフィクション。

 著者は浄土宗の女性僧侶で、2013年にNPO法人日越ともいき支援会を立ち上げ、日本に住むベトナム人技能実習生や留学生の支援をしてきた。

 著者とベトナムとは浅からぬ縁がある。父がベトナム戦争のさなか、優秀なベトナム人僧侶を避難させようと日本に呼び寄せ、寺で面倒を見ていたのだ。物心ついたときから、いつもベトナム人がそばにいた。仏縁ともいうべきベトナム人支援は娘に受け継がれ、支援会に駆け込んでくる女性たちに、慈母のように寄り添ってきた。

 21歳の若いベトナム人女性が言った。

「私は悪いことをしてしまったのだから、日本ではもう働けないんです……」

 悪いこととは妊娠を指す。子どもの父親は日本で働くベトナム人の夫なのだが、それでも彼女は妊娠を罪と感じてしまう。なぜなら、妊娠が分かるとそれを理由に離職させられ、日本から追い出されるからだ。母国で日本からの仕送りを待つ貧しい家族のもとには帰れず、誰にも妊娠を告げられないまま出産、悲劇が繰り返される。雇い主の企業だけでなく、技能実習生の味方であるはずの管理団体も助けてはくれない。

 著者は悲しみと憤りをもってこの状況と闘ってきた。帰国困難な若者を保護し、労使交渉に臨み、再就職先を斡旋し、出産を支援する。こうしていくつもの新しい命の誕生を見守ってきた。やさしく、行動力あふれる活動には頭が下がる。

 翻って、今や不可欠な外国人労働者に対して、この国の仕打ちは冷たい。本作はこの現実をあらためて日本人に突きつける。これでいいはずはない。

(集英社インターナショナル 2090円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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