「エビデンスを嫌う人たち」リー・マッキンタイア著 西尾義人訳

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「エビデンスを嫌う人たち」リー・マッキンタイア著 西尾義人訳

 9月に入っても猛暑続きで地球温暖化を実感するこの頃だが、米国では気候変動という現象はデマであり、あったとしてもそれは「人類のせい」ではないと主張する人が多数いるという。トランプ前大統領が温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めがなされたパリ協定を離脱したのはそうした人たちの後押しがあったからだ。本書は、科学的証拠(エビデンス)よりも自らの感情やイデオロギーを優先して科学を否定するのはどういうことなのか、また彼らの考えを変えさせるにはどうしたらいいのかを問うている。

 著者がまず向かったのは、地球が球体ではなく平面であると信じている人(フラットアーサー)たちの会合だ。彼らにしてみればNASAは悪魔の手先で、宇宙から撮影した地球の画像はすべてフェイクということになる。荒唐無稽な地球平面説をなぜ彼らは信じるに至り、それを広めようとしているのかを著者は粘り強く聞き出していく。そこには科学を否定する5つの誤りが見られる。①証拠のチェリーピッキング(都合のいい証拠だけをつまみ食いする)②陰謀論への傾斜③偽物の専門家への依存④非論理的な推論⑤科学への現実離れした期待。これは本書で取り上げられている、気候変動・ワクチン・GMO(遺伝子組み換え作物)・新型コロナウイルスなどの否定論者にも共通して見られるものだと指摘する。

 しかし、同じ科学否定論者といっても、あくまで経済活動を優先する気候変動否定論者から、現時点での安全性を認めつつも将来の不安を拭いきれないGMO否定論者まで幅は広い。彼らの考えを変えさせるのは頭ごなしに否定するのではなく、相手の考えを理解することだという著者は、それぞれの当事者と対話を重ねていく。「科学」について議論百出した新型コロナウイルスを経験した今、アクチュアリティーに満ちた本である。〈狸〉

(国書刊行会 2640円)

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