著者のコラム一覧
嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

日本は幽霊、海外はリビングデッド ~『寝煙草の危険』~

公開日: 更新日:

子供の人身売買を描くスパニッシュ・ホラー「戻ってくる子供たち」

 最後に、最近の海外作品を紹介しましょう。

 マリアーナ・エンリケス著『寝煙草の危険』(国書刊行会:4180円)。

 本書は、スペイン語圏のスパニッシュ・ホラー文芸で注目されているホラー短編集。著者はアルゼンチンのブエノスアイレス出身の作家です。

 現代の南米などが舞台となっていますが、日本人からすれば異国情緒が溢れるどころではありません。まるで異世界だ。

 道路脇にはゴミが散乱し、公営プールでも水は濁っているのが当たり前。子供の行方不明なんて日常茶飯事。深夜に女性がコンビニへ一人歩きできる生活環境にいる者とすれば、治安の悪さがすでにホラーです。もうなにが起きても不思議はありません。

 本書に収録されている1編『戻ってくる子供たち』では、社会問題となっている子供の人身売買が主題として扱われています。

 行方不明になり、遺体となって発見された子供たちが、突然次々と現れる。親たちは感激して子供たちを迎えるが、子供たちは水も食べものも口にしない。会話はするけれども覇気はなく、毎日なにをするでもない。

 やがて、ある夫婦は遺書を残して自殺した。

〈あれは私たちの娘ではありません〉

 戻ってきた600人の子供たちは、しばらくして封鎖されている古びた館へ入った。外から声を掛けると、彼女たちは口を揃える。

「夏になったら下りる」

 そこで主人公たちがとった行動とは──。

 必ずなにかが起きる。しかし、なにが起きるかは分からない。旧い館の中へ追い詰められたのは子供たちのはずなのに、逆に周囲の人間が追い詰められている気分になっていく。

 これこそ、恐怖と言わずしてなんと言うのでしょう。




最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち