「ゆる鉄 絶景100」中井精也著

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「ゆる鉄 絶景100」中井精也著

 テレビでおなじみの鉄道写真家による作品集。

 これまで撮影した膨大な作品の中から、ライフワークである「鉄道が持つ旅情やローカル線で感じる空気感をテーマとした『ゆる鉄』作品から、誰もが息を飲むような鉄道絶景まで」を厳選し、100名景を収録する。

 ページを開くとそこは凍てつく冬の北海道。雪と氷に覆われてそそり立つ利尻富士の巨大な山塊を背景に、宗谷本線の赤いラッセル車が空気を切り裂くように力強く進んでいる。

 かと思えば、見開きの反対側のページには同じ宗谷本線の秘境駅「糠南」の夜の風景が並んでいる。前者の動に対して、こちらは静だ。漆黒の闇の中、ぽつんと1つだけともった照明に浮かび上がる誰もいないホームに、雪が音もなく降り積もっていく。

 ほかにも、それまで釧網本線の茅沼駅のホームにいたタンチョウが線路へと舞い降りる瞬間をとらえた作品や、日本三大車窓のひとつにうたわれる石勝線の狩勝峠で、錦秋の景色の中をさっそうと進む特急おおぞら号など。北海道各線の絶景を皮切りに、南下しながら47都道府県すべてを巡る。

 鉄道絶景に欠かせない福島県の只見線も、著者の手にかかると、より「絶景感」が増した風景となる。

 目に入る樹木という樹木がすべて雪をまとい、画面全体が白というよりは銀色に輝く中、鏡面と化した川に架かる鉄橋を、鮮やかな色をまとった列車が通っていく。白黒映画でそこだけがカラーになった映像を見ているかのようだ。

 千葉県の銚子電鉄は一転して、夏の盛りの風景。周囲の樹木のうっそうとしげった葉や枝が車体に触れるほど迫った濃密な緑のトンネルを通って、鮮やかなブルーの列車がやってくる。

 同じく千葉県の小湊鉄道は、一面の菜の花畑がつくり出した黄色のじゅうたんの上をすべるように進み、著者が暮らす埼玉県では「日本中探してもこれほど壮大な鉄道写真を撮れる場所はなかなかない」と誇る、東武日光線の利根川橋梁に向かう築堤の絶景など。

 鉄道を知り尽くした氏ならではのとっておきのアングルや、それぞれの鉄道が最高に輝く季節を狙って撮影された珠玉の作品が続く。

 ビルだらけの都会のど真ん中にも鉄道絶景は存在する。

 訪日外国人にも人気のスポット・渋谷スクランブル交差点と山手線のコラボレーション、行き交う車やバスとともに何両もの路面電車が大通りを埋め尽くした広島県の広島電鉄胡町停留場付近の風景を望遠レンズで圧縮して撮影した迫力の一枚など。まさに鉄道写真の醍醐味が味わえる。

 被災した、のと鉄道の風景も復興への願いを込めてあえて掲載。四季折々の美しい風景を大切に守り、その景色が楽しめるように鉄道を走らせてくれた先人たちに感謝しかない。どちらが欠けても鉄道絶景は成立しないのだから。

 いろいろと苦境を耳にする鉄道だが、本書を手にすれば、これらの路線と自然をさらに後世へとつなぎたいと誰もが思うはず。

(小学館 3960円)

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