著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「語れ、内なる沖縄よ」エリザベス・ミキ・ブリナ著 石垣賀子訳

公開日: 更新日:

「語れ、内なる沖縄よ」エリザベス・ミキ・ブリナ著 石垣賀子訳

 お母さんは娘の名前「エリザベス」を正しく発音することができない。お母さんは買い物に行くとき、びくびくしている。お父さんと娘が文学や政治の話で盛り上がっても、お母さんは蚊帳の外。ときどきお母さんは正気をなくすほど酒を飲む……。

 わたしは本書を読み終えてしばらく、このお母さんのことが頭から離れなかった。終戦から3年後に沖縄・嘉手納に生まれ、極貧のなか勤務先のナイトクラブで出会った米兵と結婚し、アメリカに渡って娘を産み育てた女性──著者の母親だ。とても勇敢で働き者で愛情深い。でも、英語ができずアメリカ人のように振る舞えないお母さんは、家族のなかで常に半人前扱い。なにしろ、お母さんのみじめな立場を描写するのが、長くお母さんを見下してきた当の娘なのだ。記憶を絞り出すようにつづられた一文一文が、いやもう、生々しいったらない。

 これまでに出会った移民の家族、ミックスルーツの親子のことが次々と浮かんだ。親と子で母語が異なるために葛藤するケースは世界中にある。それに、ひとごとじゃない。日本に生きるわたしだって。日本語ができない海外ルーツの友人を半人前扱いしたことが一度もないか? と問われると口ごもってしまう。マイノリティーの尊厳を奪う側にいるのだった。

 本書は5年かけて書いたデビュー作だという。自らのルーツを否定していた著者がアメリカと沖縄の、英語と日本語の、男性と女性の不均衡に気づいたからこそ生まれた一冊。ゴールにたどりついた著者におめでとうと叫びたい。生々しい原稿を受け止めたご両親にも心からの祝福を。

(みすず書房 3960円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参院選神奈川で猛攻の参政党候補に疑惑を直撃! 警視庁時代に「横領発覚→依願退職→退職金で弁済」か

  2. 2

    国分太一だけでない旧ジャニーズのモラル低下…乱交パーティーや大麻疑惑も葬り去られた過去

  3. 3

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  4. 4

    参院選千葉で国民民主党に選挙違反疑惑! パワハラ問題で渦中の女性議員が「証拠」をXに投稿

  5. 5

    石破首相の参院選応援演説「ラーメン大好き作戦」ダダすべり…ご当地名店ツラツラ紹介も大半は実食経験ナシ

  1. 6

    ホリエモンに「Fラン」とコキ下ろされた東洋大学の現在の「実力」は…伊東市長の学歴詐称疑惑でトバッチリ

  2. 7

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  3. 8

    参院選終盤戦「下剋上」14選挙区はココだ! 自公の“指定席”で続々と落選危機…過半数維持は絶望的

  4. 9

    外国人の「日本ブーム」は一巡と専門家 インバウンド需要に陰り…数々のデータではっきり

  5. 10

    「サマージャンボ宝くじ」(連番10枚)を10人にプレゼント