特別寄稿・森永卓郎「電通マンぼろぼろ日記」福永耕太郎著

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「電通マンぼろぼろ日記」福永耕太郎著

 バブルの全盛期、夜の銀座で一番ブイブイ言わせていたのが、電通の社員だった。派手な金遣いだけでなく、スーツの襟に電通バッジが輝いているだけで、彼らの周りには女性が群がっていた。

 社会に出たばかりの私は、「この人たちは、一体何の仕事をしているのだろう」と不思議に思っていた。その後、マスメディアの仕事に携わるようになって、電通の仕事内容がおぼろげながら分かってきたが、本書が伝えるその実態は、はるかに衝撃的なものだ。

 表向き、広告代理店の仕事は、高い専門性を活用して、効率的かつ効果的な広告を企画し、関係各所と調整のうえ実施することだとされている。しかし、実際の仕事の大部分は、利権の獲得と分配なのだ。

 例えば、ナショナルスポンサーが新製品のテレビCMを打つとき、どの地方テレビ局にどれだけCMを流すか、その料金はいくらかといった細かいところまでスポンサーが指示することはない。一括受注した電通が差配するのだ。だから、電通は地方局の生殺与奪の権限を手に入れることになる。生き残りをかけた地方局は、電通の社員を徹底的に接待漬けにするのだ。

 その構造は、ノーパンしゃぶしゃぶ事件で名をはせた頃の大蔵省とそっくりだ。つまり、電通という会社は、民間版大蔵省というべき存在なのだ。

退職後の暮らしは…

 ただ、本書で一番印象的だったのは、退職後の暮らしだ。財務省のキャリア官僚の場合、中高年になると、もれなく天下り先が用意される。そこには、原則として、個室と秘書と専用車と交際費と海外旅行の豪華5点セットがついてくる。しかも、天下り先を変更しながら、死ぬまで面倒をみてもらえるから、利権にどっぷり漬かった官僚でも、老後の不安はない。

 ところが電通は違う。それなりの退職金をもらえるとはいえ、長年培った利権の獲得と分配という職業能力は、つぶしが利かない。一方で、長年染みついた派手な暮らしは、そう簡単に変えられないから、老後生活は一気に破綻する。だから、財務官僚と電通マンの両方の内定を持っていたら、財務官僚のほうをお勧めする。もちろん、私は、どちらも選びたいとは思わない。

(三五館シンシャ 1430円)

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