著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ゆうらん古書店(東京・経堂)色味の良い本が並びまるで現代アート

公開日: 更新日:

 経堂駅北口近くのスーパー「オオゼキ」のちょっと向こう。「きれいだなー」と、立ち止まって眺めた。店頭のディスプレーを。グリーン(田中小実昌著「カント節」)、黄色地に太い黒文字(ライムスター宇多丸ら著「ブラスト公論」)、真っ赤な帯(大瀧詠一監修「PHIL SPECTOR」)など色味の良い本が並び、現代アートのようだ。

「師匠の広瀬さんの受け売りです。色、大事だと」

 こんにちは、と出てきた店主・今村亮太さん(38)がゆるりと言う。広瀬さんとは、西荻窪の古本屋「音羽館」の店主のこと。きれいな古本屋としても知られる、人気店の音羽館で5年間修業し、昨年9月に独立したそうだ。 

 店内に入る。7坪。控えめな音量でジャズがかかり、居並ぶ本は皆、新刊さながらにピカピカ。「木の本棚いい感じ」とつぶやくと、今村さんの顔がほころんだ。

「僕、22歳からこの辺に住んでいて、近所に行きつけのバーがあって、マスターが造形職人。全部作ってくれたんです。トンカチを僕も手伝って」

 正面の平台付きの1本足の棚はシュッとしている。「宮沢賢治の真実」「日本の秘境」「森の絵本」といった本からさっそく視線を感じ、ヤバイな。左手奥に回れば、岩波文庫とちくま文庫がやたら充実。あら、私の好物の民俗学系もしっかりある……と宮本常一や柳田國男を横目にひと回り。

「お得意ジャンルは?」と今村さんに聞くと、「ずっと読んできたのは海外文学なので」と。なるほど、どーんと10段の本棚2つを海外文学が陣取っていて、「右が英語圏、左が非英語圏」の本だそう。

「僕は柴田元幸の訳が好きで。いい曲しかかけないDJみたいな感じの翻訳家なんですよ」とのことで、柴田元幸訳の本が20冊ほど横並びしているじゃない。「一冊、読んでみたくなった」と言うと、ニューヨークが舞台のポール・オースター著「ガラスの街」(新潮社)を薦めてくれ、09年の初版本を400円で購入。

■世田谷区経堂2-15-12/小田急線経堂駅から徒歩3分/℡03・6413・5833/正午~20時/火曜休

ウチらしい1冊

「不安の書」フェルナンド・ペソア著 高橋都彦訳

「ペソアは、ポルトガルのお札にもなった詩人。1935年に亡くなってから、トランク一杯の遺稿が発見され、その1つがコレで、現代世界文学の傑作とされます。いろんな人格を持って、いろんな作品を書いた人なんですが、この本はリスボン在住の帳簿係補佐の手記という形式で語られる、さまざまな悲観の断章。カフカみたいかも。読んだら、気が楽になること、請け合いです。絶版の希少本なので、高くてすみません」

(新思索社 2007年 売値5000円)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党・神谷宗幣代表が街頭演説でブチまけた激ヤバ「治安維持法」肯定論

  2. 2

    「自公過半数割れ」後の大政局…反石破勢力は「高市早苗首班」で参政党との連立も

  3. 3

    元小結・臥牙丸さんは5年前に引退しすっかりスリムに…故国ジョージアにタイヤを輸出する事業を始めていた

  4. 4

    自民旧安倍派「歩くヘイト」杉田水脈氏は参院選落選危機…なりふり構わぬ超ドブ板選挙を展開中

  5. 5

    「時代に挑んだ男」加納典明(25)中学2年で初体験、行為を終えて感じたのは腹立ちと嫌悪だった

  1. 6

    トップ清水賢治社長に代わったフジテレビの“アニメ推し”が目に余る

  2. 7

    参院選和歌山「二階vs世耕」は血みどろの全面戦争に…“ステルス支援”が一転、本人登場で対立激化

  3. 8

    参政党が消せない“黒歴史”…党員がコメ農家の敵「ジャンボタニシ」拡散、農水省に一喝された過去

  4. 9

    長嶋茂雄さんの引退試合の日にもらった“約束”のグラブを含めてすべての思い出が宝物です

  5. 10

    遠野なぎこさんは広末涼子より“取り扱い注意”な女優だった…事務所もお手上げだった