「原爆写真を追う」林重男、井上祐子著

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「原爆写真を追う」林重男、井上祐子著

 1945年10月初め。広島の爆心地近く。かろうじて残っている商工会議所屋上の望楼に上ったカメラマン林重男は、一面の瓦礫の荒野を前に無言で立ち尽くした。これがたった1発の爆弾による被害なのか。

 我に返った林は、狭い望楼の四隅を移動しながら何度もシャッターを切った。

 戦中、陸軍傘下の写真宣伝物制作会社、東方社のカメラマンだった林は、敗戦直後、原子爆弾の災害調査研究を行う文部省特別調査団の一員として被爆地に赴き、原爆投下2カ月後の状況をフィルムに収めた。

 時は流れて1992年、被爆地での撮影体験を写真と文章でまとめた著作「爆心地ヒロシマに入る カメラマンは何を見たか」(岩波ジュニア新書)を刊行した。

 本作「原爆写真を追う」は、絶版となっていた前述の林の著作を第Ⅰ部に収録。第Ⅱ部では林をはじめとする「原爆カメラマン」たちの業績と貴重な写真のその後を追ったノンフィクションになっている。第Ⅱ部を執筆した井上祐子は近現代日本の視覚メディア史を専門とする研究者で、林のネガフィルムの整理、分析にも携わった。

 戦中の林は、「カメラマンとして国に尽くさなければ」という思いから、戦意高揚のための写真を撮っていた。戦後、そういう自分を「戦争加担者」と自覚し、84歳で亡くなるまで生涯にわたって反核運動を担い続けた。

 本作には、多くの写真が収録されている。荒野と化した街を俯瞰したパノラマ写真、ひしゃげた建物、片足だけの鳥居、破壊された学校、校庭に散らばる遺骨……。撮影場所入りのモノクロ写真一枚一枚が、78年前の惨状を伝えている。林が願った核廃絶、軍縮と逆行する愚かな人類は、今こそ、この貴重な映像記録と向き合う必要がある。

(図書出版みぎわ 2860円)


【連載】ノンフィクションが面白い

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