「巨構生物」塗壁著

公開日: 更新日:

「巨構生物」塗壁著

 現実には存在しない巨大な生物をモチーフにしたイラスト画集。

 百聞は一見にしかず。ページを開くと目に飛び込んでくるのは、森の中に突如現れた巨大な甲虫だ。よろいのような羽が開くと、体の中は書庫になっており、まるで移動図書館。草花に覆われ草原のようになっているその背中で、少年が寝っ転がって読書を楽しんでいる。そして周囲には、散らばった本かと思いきや、幼虫なのだろうか、触角や目がついた本があちこちでうごめいている。

 作品のタイトルは「本の虫」。著者の解説によると、「本でできた虫を格納する本棚のような形をした巨大な虫」だそうだ。

 巨大な虫は、古本につく紙魚をモチーフにしており、「食べ物ではなく読み物として本が好きになり、自らも本棚になった紙魚界の異端」という裏設定もあるのだという。

 さらに、少女が見下ろす河原に甲羅から満開の桜の木を生やした巨大な亀が並ぶ「桜並亀」、そして甲羅が火焔型土器のように荒々しい造形の亀の群れが疾駆する「縄文土亀」と続く。

 もうお気づきだろう。タイトルがなんともユーモラスに富んだダジャレになっている。タイトルの面白さと描かれる巨構生物のリアルさとのギャップが楽しい。

 改めて「階獣」と題された表紙の絵を見てみると、どこかの海に浮かぶ島が描かれている。天に向かってそそり立つ山の斜面には階段状に白亜の建物が立ち、そのてっぺんは白骨化した巨大な動物の頭蓋骨となっている。よく見ると、島そのものがその動物の白骨化した体のようだ。

 著者によると、マンションの屋外階段が巨大な生き物の背骨のように見えたのをヒントに描いた作品で、階段の巨大な生物だから階獣、そして階獣から海獣を連想してセイウチの頭蓋骨を取り込んだのだという。

 もちろん、ダジャレだけから作品が生まれるわけではない。「史跡」というタイトルの作品のテーマは戦争と平和だという。巨大ドラゴンがヒトによる攻撃で息絶え、戦車の上に覆いかぶさっている。幾世代も経たのか、戦車もドラゴンも緑に覆われ自然に返ろうとしているその風景を見る少年もいる。少年の頭の上には小さなドラゴンが乗っており、今は両者が共生していることを表現している。

 また蚕蛾をもじった「懐古蛾」と題された作品では、薄暗い路地に立つ男がタイムマシンになっている「繭」を通して、美しい情景の中にいるかつての自分と再会する場面を描く。

 ほかにも、盆栽ならぬ「盆犀」、アメンボの「飴ン棒」、植物なのか、動物なのか分からないキリンの形をした奇妙な林「奇林」など、どれもあり得ない生き物たちなのだが、そのオリジナルはよく知る生き物たちでもあり、見る者は違和感なく著者が作り出した幻想世界で自在に空想を広げることができる。

 (産業編集センター 2200円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち