ウクライナ侵攻の陰で

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「ロシアとシリア」青山弘之著

 長期化するウクライナ侵攻。出口が見えなくなりつつある泥沼状態の陰に、見落とされる現実がある。



 かつてチュニジア発の中東政変が「アラブの春」ともてはやされたとき、ほとんど唯一、「シリアは情勢が違う」と指摘し続けたのが本書の著者。東京外大のシリア専門家だ。シリアは西側諸国からの轟々たる非難の中、プーチンのロシアからの後ろ盾を得て内戦を戦い抜いてきた。今回、もしもプーチンがなんらかの理由でロシアを脱出するとしたら、きっとシリアに亡命するだろうとさえいわれている。そのシリアの視点に立ってウクライナ侵攻を読み解いたらどうなるか。それが本書の核心だ。

 著者が力説するのは日本を含む西側諸国の二重基準。ウクライナ侵攻のロシアを徹底非難の一方、ボスニア、アフガン、リビア、イラクなどへの米国の行為は不問に付すのはなぜなのか。「アラブの春」の際もメディア報道は「勧善懲悪と予定調和」で「過度に単純化されたステレオタイプ」に終始し、実態を見過ごした。

 情報が少ないための偏りと著者は当時考えていたが、ずっと情報も関係も豊富なはずのウクライナ侵攻では、単純化はもっとひどかった。欧米のニュースを丹念に当たり、ヨーロッパ系の白人であるウクライナ人への好感が口にされるさまを見逃さない著者の行間に怒りが宿っている。

(岩波書店 2200円)

「ウクライナにいたら戦争が始まった」松岡圭祐著

 日本国内でもウクライナ支持の声は高いが、実は中身はいたって情緒的。ただの判官びいきの面が大きい。北朝鮮問題や対テロ戦争などの時事問題をストーリーに織りこむのが得意な推理作家が、今回はロシアのウクライナ侵攻を現地で体験した日本人女子高生の体験記という設定に取り組んだ最新作だ。

 主人公の琉唯は福島県南相馬市に住む高3女子。コロナ禍のもと、母と中1の妹とともにウクライナに駐在する父のもとにやってくる。それがたまたまロシア軍の侵攻の直前だった、という設定。ニュース解説だけでは実感できない現地の模様と緊迫感を物語の中で経験するというわけだ。

 今回はミステリー仕立てではなく、ストレートな体験記形式で実際にブチャで起こった市民殺害事件に迫ってゆく。すべて綿密な取材の成果だろう。

(KADOKAWA 1760円)

「魂の叫び ゼレンスキー大統領100の言葉」岡部芳彦監修

 今回のロシアによる侵攻劇で一躍世界に名をとどろかせたのがウクライナのゼレンスキー大統領だ。喜劇俳優出身で政治経験ゼロという立場は、ふつうならマイナスに働いても不思議ではない。しかしゼ氏はたくみなパフォーマンスでたちまち西側メディアのヒーローとなり、日米欧から国連までが彼を演説に招いた。本書はそのゼ氏の演説や発言からの抜粋集。監修者は国際ウクライナ学会の日本支部長で、ゼ氏とも面識がある。

 英議会のオンライン演説では「生きるべきか死ぬべきか」とシェークスピアを引用し、米議会では「私には夢がある」とキング牧師の言葉を借用する。単純な演説技法だが、うまく時流をつかみ、紋切り型の表現を駆使して、“善玉・悪玉”の二分法に弱い人々の心情に訴えかける。パフォーマンス上手の英雄、その秘訣が垣間見える。

(宝島社 1430円)

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