じっくり楽しめる大人の漫画本

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「シベリアの俳句」ユルガ・ヴィレ著 リナ板垣イラスト、木村文訳

 まだまだ暑さが続くこの季節。わざわざ炎天下に出かけずに、エアコンの効いた部屋で漫画を楽しむのはいかがか。ノーベル文学賞作家のコミカライズから、読んだあとすぐに作りたくなるスパイスカレーのレシピ漫画まで、じっくり楽しめる大人の漫画5冊を紹介する。



 1941年6月14日の夜明け頃。リトアニアに暮らす13歳の少年アルギスは両親と父の妹であるペトロネレおばさん、姉とともに極寒のシベリアの強制収容所に連行されてしまう。

 リトアニア発のグラフィックノベルである本書。原作者はアルギスの息子にあたる人物で、父の体験をもとにリトアニア人がたどった過酷な運命を描いている。

 収容所で飢えと寒さ、そしてシラミと闘う日々が始まる。施設には日本人もいた。彼らは夜になると荷車に山積みにされ運び出されていた。だらりと垂れた足はあまり大きくなく、変わった素材の人形のようだった。

 ペトロネレおばさんは大の日本好きで、収容所にもこっそり俳句の本を持ち込んでいた。アルギスたちはくず紙に俳句を書き写し、日本人がいるはずの塀の向こうへと投げ入れた。やがて、それを拾った誰かが「ほほう」と日本語のような言葉を発するのが聞こえ……。

(花伝社 2200円)

「ピリピリとビリビリ」西倉新久漫画 印度カリー子スパイス監修

 暑い季節にぴったりの、スパイスカレーの魅力を描いたレシピ漫画。ライブハウスの店長代理である美浪。コロナ禍で売り上げは激減し、廃業寸前だ。そんなとき、昔の馴染みから以前提供していたスパイスカレーでテイクアウトを始めてみてはとアドバイスされる。

 しかし、作っていたのは美浪の父。しかも今は放浪先の海外から帰国できず、レシピを聞いても自分で創意工夫しろと取り付く島もない。そこで美浪は謎のミュージシャンであるキタマクラとともに、レシピの開発に挑む。

 カルダモンとシナモン、ニンニク、ショウガなどを油で10分じっくり炒めたら、あとは煮込み時間いらずで完成する時短カレーの「キーママタール」。ワインビネガーでマリネした肉でつくる酸っぱ辛さが決め手の「ポークビンダルー」など、作ってみたくなるレシピがズラリ。コロナ禍の再生物語の要素もあり、ひと粒で二度おいしい作品だ。

(文藝春秋 1045円)

「つげ義春 名作原画とフランス紀行」つげ義春ほか著

 近年では各国語版の作品集が刊行され、海外での評価も高まるつげ義春氏。2020年にはフランスのアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を受賞し、現地の授賞式にも出席した。

 実は同氏、人前に出ることが苦手で長く隠棲を続けてきた。しかし翻訳出版のオファーが急増し、断る方が面倒くさくなってしまったそう。本書では、82歳にして初海外であるフランス旅の様子をリポート。海外メディア初となった本人インタビューも収録されている。

 さらに本書の目玉が、1965年から70年にかけて「月刊漫画ガロ」に掲載された7作品の原画を収録していること。スクリーントーンののりが変色して赤茶けた紙や、下書きのセリフ跡などを見ることができる。エロチシズムと死をにおわせる「沼」、代表作のひとつで“旅もの”の系譜に分類される「もっきり屋の少女」など貴重な原画ばかり。ぜひ手に取ってみるべし。

(新潮社 2750円)

「戦争は女の顔をしていない」小梅けいと作画 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ原作

 ノーベル文学賞受賞作家の主著のコミカライズ。第2次世界大戦、ソ連では100万人を超える女性が、武器を手に兵士として最前線で戦った。原作者は500人以上の従軍女性に聞き取りを行い、戦争の真実を明らかにしてきた。

 本作は、そんな生々しい証言を漫画化しているのだが、これまでの戦争漫画とは一線を画すのが、無残に死にゆく兵士の姿を描写するのではなく、勇敢に戦った人々を称えるといった内容でもないこと。可憐な姿で描かれた狙撃兵や高射砲兵の女性たちの戦いが、淡々と描写されていくのだ。一方、女性ならではの苦痛も描かれる。生理用品など支給されず、ズボンの股は血で真っ赤に染まり、それが乾いて皮膚が切れる。爆撃の中、逃げるよりも経血を洗い流したいと川に入り、死んでいった女性たちもいたという。

 女性の視点で戦いの最前線が描かれた本書。戦争の無慈悲さが胸に迫る。

(KADOKAWA 1100円)


「まんが アフリカ少年が日本で育った結果」星野ルネ著

 カメルーン生まれ関西育ちの著者によるコミックエッセー。

 子どもの頃は同級生たちの好奇の目にさらされ、目立ちたくないと思うようになっていたという。しかし中学校のランチタイム、母が作ってくれたのはバナナの蒸し物とチキンのピリ辛スープという純度100%のアフリカメニュー! やけくそでバナナを手づかみし、スープにディップするアフリカスタイルで食べていたら、観客が集まるようになってしまったとか。また、高校の入学式では、生徒たちが窓の外にクギ付けに。そこには、民族衣装フル装備の母の姿が! 恥ずかしさMAXになったと振り返る。

 しかし今ではすっかりポジティブになり、電車などでは日本の幼い子どもが初めて至近距離でアフリカ系の人間を見たときのリアクションを観察し、楽しんでいるという。

 カルチャーギャップや人種の問題が、著者の絶妙なバランス感覚と漫画ならではのユニークさで描かれている。

(毎日新聞出版 1100円)


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