「昭和と日本人 失敗の本質」半藤一利著/角川新書

公開日: 更新日:

 半藤一利氏(1930~2021年)は、日本が国策を誤り、無謀な戦争に突入したのは、政府に騙されたというよりも、マスメディアが世論を煽り立て国民が戦争に熱狂したからだという現実を見事に描いている。

 英米を中心とする白人に侮辱され、国際社会において国力相応の地位を認められていないと当時の日本人は苛立っていた。そして、既存の国際法自体が米英列強の利益のために作られたルールブックなので、それに従う必要はないと考えるに至った。それが1941年12月8日に日本が米英に宣戦布告したときの開戦の詔勅に表れている。
<それよりもなによりも、対米英戦争の「開戦の詔書」に、根本問題として当然なければならない一行が、なぜ削りとられていたのか。/「天佑を保有し、万世一系の皇祚を践める大日本(帝)国皇帝(天皇)は……」と書き出しはほぼ同じながら(丸カッコ内が対米英戦)、日清戦争・日露戦争・第一次世界大戦における詔書には、その一行がちゃんとあったのに、なのである。/「苟も国際法に戻らざる限り、各々権能に応じて一切の手段を尽すに於て、必ず遺漏なからんことを期せよ」(日清戦争)(中略)/地球上の国家の一員として大切なこの一行が、である。過去のあらゆる外戦のときに明示されていた“国際公法の条項を守れ”の一行を、なぜに昭和の指導者は削りとって、てんとして恥じなかったのだろうか。それも忘却したわけではなく、意識的削除なのである。>

 国際法を無視する無法者というレッテルを貼られるような状況を日本は自らつくり出してしまったのである。

 この点、ロシアは狡猾だ。日ソ中立条約に侵犯して1945年8月9日に日本との戦争を始めたときも、今年2月24日にウクライナに侵攻したときも、ロシアは屁理屈だけれども一応、自らの行為を国際法的に正当化する。ウクライナ戦争も独立国である「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の要請に応じて、ロシアは国連憲章51条に規定された集団的自衛権を行使していると主張する。この主張を法的に崩すのは意外と難しい。 ★★★(選者・佐藤優)

 (2022年7月13日脱稿)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    小倉一郎さん「がん」が肺、胸骨、脳の4カ所に…大病を機に、やりたい3つのことすぐ行動に

    小倉一郎さん「がん」が肺、胸骨、脳の4カ所に…大病を機に、やりたい3つのことすぐ行動に

  2. 2
    ポスト三浦瑠麗は決まりか… 岩田明子氏「めざまし8」「サンジャポ」出演を視聴者はどう見た

    ポスト三浦瑠麗は決まりか… 岩田明子氏「めざまし8」「サンジャポ」出演を視聴者はどう見た

  3. 3
    道端ジェシカ容疑者 МDМA所持の疑いで逮捕…母親は「しばらく連絡していない」と憔悴しきり

    道端ジェシカ容疑者 МDМA所持の疑いで逮捕…母親は「しばらく連絡していない」と憔悴しきり

  4. 4
    上田桃子まさかの大逆転負け…「バウンスバック率」が物語る“ミスで仏頂面”のマイナス

    上田桃子まさかの大逆転負け…「バウンスバック率」が物語る“ミスで仏頂面”のマイナス

  5. 5
    高市早苗氏こそ「国会軽視」…土日に“言い訳ツイート”20回超、シンパも心配する異常ぶり

    高市早苗氏こそ「国会軽視」…土日に“言い訳ツイート”20回超、シンパも心配する異常ぶり

  1. 6
    中居正広 WBC"静かなリポート"で体調不安説が再燃…元SMAPメンバーの活躍で奮起か?

    中居正広 WBC"静かなリポート"で体調不安説が再燃…元SMAPメンバーの活躍で奮起か?

  2. 7
    球児の“ペッパーミル”に審判ダメ出し 高野連の頭の中はいまだに「青春スポ根ドラマ」幻想

    球児の“ペッパーミル”に審判ダメ出し 高野連の頭の中はいまだに「青春スポ根ドラマ」幻想

  3. 8
    台湾新幹線の車両更新で「日本が逆転受注」のウラ事情 日台親善のうつろさ浮き彫りに

    台湾新幹線の車両更新で「日本が逆転受注」のウラ事情 日台親善のうつろさ浮き彫りに

  4. 9
    朗希のWBCメキシコ戦はメジャーの大品評会と化す “25歳ルール”クリアなら総額450億円契約も

    朗希のWBCメキシコ戦はメジャーの大品評会と化す “25歳ルール”クリアなら総額450億円契約も

  5. 10
    田中みな実と宇垣美里の明暗…キャラ丸かぶり元女子アナ「女優」で成功するのはどっち?

    田中みな実と宇垣美里の明暗…キャラ丸かぶり元女子アナ「女優」で成功するのはどっち?