「紛争地のポートレート」白川優子著

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 地球の上では、戦争や災害による人道危機が絶えない。その現実を一番よく知っているのは、「国境なき医師団(MSF)」で活動している人たちではないだろうか。

 著者もその一人だ。2010年から、手術室看護師としてMSFの活動に参加。イエメン、シリア、イラク、南スーダン、アフガニスタンなど10カ国で医療支援に携わってきた。

 MSFから要請があれば、バックパックに最小限の荷物を詰め込み、平和な日本の日常を離れて、指定された国に出かけていく。現地では、世界各国から集まった医療のスペシャリストや現地スタッフとチームを組んで人命救助に当たる。そこには凄惨な現実があり、人間という存在の光と闇が浮かび上がる。 

 地雷を踏んで運ばれてくる一団の中で、死亡あるいは最も激しい損傷を受けているのは決まって一家の主。家族を守るために地雷原の先頭を歩くからだ。手術で命を取り留めた父親と幼い娘は、どちらも全身に包帯を巻かれ、2つ並んだベッドの上で、顔を横に向けて見つめ合っていた。家族や家を失い、自分も傷ついた人たちは、この先も生きていかなくてはならないのだ。しかし、紛争が政治的に決着すれば、メディアはその後を報じない。この現実は世界に伝わらない。それでいいのか。全世界の戦争当事者は、殺戮と破壊行為の先に何を得ようとしているのか。怒り、悲しみ、無力感で心が折れかかることもある。著者はそのたびに自分を立て直し、活動を続けてきた。それは、素晴らしいチームメンバーがいたから、そして、どんな紛争地にも心優しい人たちが暮らしていたからだ。

 そうした出会いの数々が写真を交えて語られる。過酷な現場にありながら、エピソードは温かく、時にユーモラス。人間は酷いことをするが、光も見える。読みながら心に明かりがともった。

(集英社 1760円)

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