北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「不可視の網」林譲治著

公開日: 更新日:

 監視カメラシステム(SCS)という新しいセキュリティーシステムの実証実験のために選ばれた地方都市(姫田市)が舞台の物語である。その実験は、総務省、公安調査庁、外務省、経産省など多くの省庁がこのプロジェクトに関わり、犯罪の抑止と犯人検挙のためのものであり、そこら中に監視カメラがある社会と思っていただければいい。

 多くの語り手が登場してくるが、そのうちのひとりが流れ者の船田信和。姫田駅に着いたときの残金は1010円。スマホで仕事を探すと廃屋の解体作業員を市役所が募集していたのでそれに応募する。いつもはネットカフェやカプセルホテルに泊まっているが、姫田市には空き家が多いので、そのうちの1軒にもぐり込めば宿泊費が浮く、と彼は考える。で、入り込んだ空き家でバラバラ死体を発見する──-おっと思う箇所だが、まだ物語は始まらない。

 次にゴミ焼却施設の従業員となり、今度は団地の空き室にもぐり込むが、ある日仕事を終えて部屋に帰ると、いきなり腕をつかまれ、台所の床に叩きつけられる。背中を足で踏まれ、「お帰り、船っち」と言うので、顔を見ると近所のコンビニで働く川原という女性。なんで俺の名前を知っているのか。なぜ人の部屋に入り込むのか──ここから物語は予想もつかない方向にどんどん動きだしていく。紹介はここまでだ。

 人物造形も、複雑に入り組んだ構成もいいが、予想外の展開がいちばん素晴らしい。

(光文社 924円)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    山口達也さんの“再出発”に賛否…TOKIOを連想させる「社名」にドン引きするファンも

    山口達也さんの“再出発”に賛否…TOKIOを連想させる「社名」にドン引きするファンも

  2. 2
    西武・源田壮亮やはり無念の離脱…松井監督も苦悩する「WBC制覇」の大きすぎる代償

    西武・源田壮亮やはり無念の離脱…松井監督も苦悩する「WBC制覇」の大きすぎる代償

  3. 3
    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

    中村倫也の“水卜アナいじり”がモラハラ気味でプチ炎上も…女性からは擁護が圧倒的なワケ

  4. 4
    「罠の戦争」健闘するも…フジ冬ドラマ不振がキムタク「教場0」の“おぜん立て”という皮肉

    「罠の戦争」健闘するも…フジ冬ドラマ不振がキムタク「教場0」の“おぜん立て”という皮肉

  5. 5
    Kōki,と工藤静香の“セレブ母娘”はどうする? 小松菜奈が「シャネルの顔」大抜擢の快挙

    Kōki,と工藤静香の“セレブ母娘”はどうする? 小松菜奈が「シャネルの顔」大抜擢の快挙

  1. 6
    武田鉄矢まさかのガーシー擁護…「金八先生」のイメージ完全崩壊で宮迫博之と同レベルに?

    武田鉄矢まさかのガーシー擁護…「金八先生」のイメージ完全崩壊で宮迫博之と同レベルに?

  2. 7
    ロンブー淳「ガーシー逮捕状」に沈黙貫く…番組出演促す発言、BTS詐欺擁護で問われる責任

    ロンブー淳「ガーシー逮捕状」に沈黙貫く…番組出演促す発言、BTS詐欺擁護で問われる責任

  3. 8
    「ペンギン池落下」で最も迷惑なのは春日俊彰? カンニング竹山ら先輩の「擁護」が逆効果

    「ペンギン池落下」で最も迷惑なのは春日俊彰? カンニング竹山ら先輩の「擁護」が逆効果

  4. 9
    長澤まさみ美脚を惜しげもなく披露 「シン・仮面ライダー」ショッカー怪人役で圧倒的存在感

    長澤まさみ美脚を惜しげもなく披露 「シン・仮面ライダー」ショッカー怪人役で圧倒的存在感

  5. 10
    高市早苗氏は地元や総務省から総スカン…捏造発言は職員への「配慮」と主張の支離滅裂

    高市早苗氏は地元や総務省から総スカン…捏造発言は職員への「配慮」と主張の支離滅裂