「いまさら聞けないキリスト教のおバカ質問」橋爪大三郎著/文春新書

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 衰えたとはいえ、キリスト教は世界宗教だ。しかも、国際社会における主要な権力である欧米諸国の価値観にはキリスト教(特にプロテスタンティズム)がある。

 日本におけるキリスト教の影響は限定的だ。しかも、現在、大多数のキリスト教徒は両親が信者だったので洗礼を受けたという人で、キリスト教の神学や思想的機能について関心を持っている人が少ない。橋爪氏は、プロテスタントのキリスト教徒であるが、本書では自らの信仰をとりあえずかっこの中に入れて、非キリスト教徒の読者を対象にこの宗教の特徴をわかりやすく説いている。

 特に優れているのが救済予定説についての解説だ。

<神は、天地創造のはじめから、あなたを救うか救わないか、決めていた。神は、誰と誰をこの世界に存在させるか、計画していた。その計画どおりに、アダムとイブを、カインとアベルを、ジョンやメアリーやエリザベスを、存在させていきます。あなたもその計画にもとづいて、この世に生まれました。そして、どういうふうに行動し、どんな人生を歩み、どう死ぬかも、神によって計画されていました。裁判の材料は完全に出揃っているわけですから、救うか救わないかの判決も、天地創造のはじめに決まっていた、というわけです。/ちょっと待って、と思うかもしれない。でも、この考え方は合理的なのです。人間は、時間のなかに生きています。これから先のことは、わからない。でも神は、永遠の存在なので、実は時間のなかに生きていないのです。神にとっては、天地創造のときも終末のときも、同時であると考えられます。/この考え方を、救済予定説(predestination)といいます。カルヴァンが最初に唱えました>

 救済が自分が生まれる前から決まっているならば、努力など必要でないと思う人もいるかもしれない。救済予定説に基づけば、そういう発想をすること自体が、その人が選ばれていないことになる。選ばれている者は、現世でも成功する。その成功は自分の力ではなく、神により与えられたものだ。だからこの力を他の人のために用いて神に喜んでもらうのが、選ばれた人間の使命ということになる。欧米エリートの価値観の基礎には救済予定説がある。

 ★★★(選者・佐藤優)

(2022年5月20日脱稿)

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