「エシカルフード」山本謙治氏

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 SDGsでは、長年行われてきた資源収奪型の開発ではなく、持続可能な開発に変えていこうと呼びかける。その基礎とも言えるのが「エシカル=倫理的な」という概念で、生産・消費・流通すべてにおいて重要なキーワードとなっている。

「“環境”と“人”、そして“動物”に配慮されていることがエシカルにつながります。日本では2010年ごろからアパレル業界で先行し、“エシカルファッション”などの言葉が使われ始めました。現在では幅広い分野で取り組まれていますが、私はその中でも食の分野に着目し、倫理的に配慮された食品、すなわち“エシカルフード”をテーマに発信を続けてきました」

 本書では、エシカルフードの基本や日本の食の課題などを分かりやすく解説。日々の生活と切り離せない食を通じて社会の課題を解決するヒントを提示する、食のエシカル消費の入門書だ。

「ヨーロッパを中心に広がったアニマルウェルフェア(AW)という言葉があります。これは経済動物である家畜も最低限の福祉を得るべきという考え方で、苦痛・傷害からの自由、正常な行動ができる自由など5つの自由を確保して倫理的に飼育されるべきとされています。AWに配慮された食肉も、エシカルフードであるひとつの条件になります」

 当然の配慮と思うかもしれないが、実は日本では難しいことも多い。例えば日本では牛を飼う際、危険を避けるために神経の通った角を切る処置をすることがある。しかしAWの観点からすればこれはとんでもないことだ。また欧米のAW畜産では、動物が自由に屋外に出られることが条件であることも多い。しかし、土地が少ない日本では放牧が大きなハードルになる。鶏卵もしかりで、日本の養鶏産業では鶏を閉じ込めるケージ飼いが9割を占めているという。

■“ときどきエシカル”でも市場は変わる

 本書では、エシカルを考えるときに重要な7つのテーマを提示。「環境問題」「AW」「人権・労働問題」「フェアトレード」「商品・サービスの持続可能性」「利益の公正な分配」「食品ロス」について、倫理的な配慮がされていることがエシカルな食品であるか否かを判断する基準になると述べている。

「残念ながら日本はエシカルフード後進国です。環境や文化が違うため、すべて欧米同様の食のエシカルを目指すことは困難でしょう。しかし、今大切なことは、倫理的に配慮した食品や持続可能な農業や畜産に関わる“世界標準”を知っておくこと。そうしなければ、世界に誇る日本の食文化がガラパゴス化しかねません」

 食のエシカル消費はハードルが高そうだが、著者は“ときどきエシカル”だけでも市場は大きく変わるとアドバイスする。

「エシカルの本場のイギリスでも、エシカルなものしか買わないという人は5~10%に過ぎません。しかし、体に良い食品を買おう、給料日だから少しいいものを買おうという“ときどきエシカル”の層がおよそ70%いて、メーカーやスーパーを動かす力となっているのです」

 中高年世代以降は、エシカルなど“意識高い系”だけのものと感じるかもしれない。しかし今、子供たちの世代はすでに学校でSDGsやエシカルを習いながら成長している。間もなく、エシカル・ネーティブ層が消費者に加わってくるわけだ。

「本書を、お子さんや若い世代との会話に役立てていただきたい。大人以上に彼らはエシカルの重要性を理解しています。後れを取らないよう、大人世代もまず知ることが大切です」

(KADOKAWA 990円)

▽やまもと・けんじ 1971年、愛媛県生まれ。慶応義塾大学環境情報学部在学中にキャンパス内に畑を開墾し野菜を生産。大学院修士課程修了後、大手シンクタンクで畜産関連のコンサルティングに従事。2004年㈱グッドテーブルズ設立。著書に「激安食品の落とし穴」「日本の『食』は安すぎる」など。

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