「シナプス」大木亜希子著/講談社

公開日: 更新日:

 私は普段小説をあまり読まないのだが、本書はすぐに読んだ。著者のキャリア形成に強い興味を持っていたからだ。

 著者は、元SDN48のメンバーで、AKBグループの一員として紅白にも出場した。ただAKBより格落ちのグループであり、著者はグループ内のトップメンバーでもなかった。もちろん、アイドルグループの一員になるだけでも、1000人に1人のビジュアルが必要だから、著者も一般人と比べたらずっと奇麗だ。ただ、アイドルの賞味期限は短い。その後、役者やタレントといった表現者としてのセカンドキャリアを歩めるのは、ほんの一握りで、多くのアイドルは、その美貌を生かして普通の主婦の道を選んでいく。

 そうしたなかで、著者は物書きの道を選んだ。ライターをしながら書いた「アイドル、やめました。」で注目を集め、自身の生活苦を描いた「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」は、スマッシュヒットとなった。その後、著者は小説に挑戦する意欲を表明していたが、それがこんなに早く、しかも講談社の単行本として実現するとは、思っていなかった。

 本書は、4つの短編で構成されている。第4話は第1話の続編だが、4つの短編には共通することがある。それは、表現者として活躍したちょっと可愛いアラサーの主人公が、今後の人生をどのように築いていくのか葛藤を繰り返すという物語だ。つまり、本書の主人公は、間違いなく著者の分身なのだ。

 もともと著者の文才は抜きんでていた。ただ小説にしたことで、著者は壁を突き抜けたと思う。それは、性愛の部分だ。ノンフィクションだと、自身の性体験を赤裸々に描くわけにはいかない。恥ずかしいだけではなく、相手にも迷惑がかかってしまうからだ。しかし、本書では、アラサー女性の大きな関心事でもある性愛の部分を大胆に描写している。彼女の文才がさらに磨かれたのだ。

 小説家というのは、大きな文学賞を取っても、飯が食えない厳しい世界だ。ただ、無駄がなく、よく練られた本書の文章は、アラサー女性の内面を見事に描いていて、圧倒的に面白い。本書の成功を祈らずにいられない。 ★★★(選者・森永卓郎)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    小倉一郎さん「がん」が肺、胸骨、脳の4カ所に…大病を機に、やりたい3つのことすぐ行動に

    小倉一郎さん「がん」が肺、胸骨、脳の4カ所に…大病を機に、やりたい3つのことすぐ行動に

  2. 2
    ポスト三浦瑠麗は決まりか… 岩田明子氏「めざまし8」「サンジャポ」出演を視聴者はどう見た

    ポスト三浦瑠麗は決まりか… 岩田明子氏「めざまし8」「サンジャポ」出演を視聴者はどう見た

  3. 3
    道端ジェシカ容疑者 МDМA所持の疑いで逮捕…母親は「しばらく連絡していない」と憔悴しきり

    道端ジェシカ容疑者 МDМA所持の疑いで逮捕…母親は「しばらく連絡していない」と憔悴しきり

  4. 4
    上田桃子まさかの大逆転負け…「バウンスバック率」が物語る“ミスで仏頂面”のマイナス

    上田桃子まさかの大逆転負け…「バウンスバック率」が物語る“ミスで仏頂面”のマイナス

  5. 5
    高市早苗氏こそ「国会軽視」…土日に“言い訳ツイート”20回超、シンパも心配する異常ぶり

    高市早苗氏こそ「国会軽視」…土日に“言い訳ツイート”20回超、シンパも心配する異常ぶり

  1. 6
    中居正広 WBC"静かなリポート"で体調不安説が再燃…元SMAPメンバーの活躍で奮起か?

    中居正広 WBC"静かなリポート"で体調不安説が再燃…元SMAPメンバーの活躍で奮起か?

  2. 7
    球児の“ペッパーミル”に審判ダメ出し 高野連の頭の中はいまだに「青春スポ根ドラマ」幻想

    球児の“ペッパーミル”に審判ダメ出し 高野連の頭の中はいまだに「青春スポ根ドラマ」幻想

  3. 8
    台湾新幹線の車両更新で「日本が逆転受注」のウラ事情 日台親善のうつろさ浮き彫りに

    台湾新幹線の車両更新で「日本が逆転受注」のウラ事情 日台親善のうつろさ浮き彫りに

  4. 9
    朗希のWBCメキシコ戦はメジャーの大品評会と化す “25歳ルール”クリアなら総額450億円契約も

    朗希のWBCメキシコ戦はメジャーの大品評会と化す “25歳ルール”クリアなら総額450億円契約も

  5. 10
    田中みな実と宇垣美里の明暗…キャラ丸かぶり元女子アナ「女優」で成功するのはどっち?

    田中みな実と宇垣美里の明暗…キャラ丸かぶり元女子アナ「女優」で成功するのはどっち?