架空の雑誌の編集部が舞台のファンタジー映画

公開日: 更新日:

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」

 ニッポン人にはどういうわけか、ニューヨークを「コジャレた街」と思ってる向きが多い。ほんとかね。だってトランプを生んだ街ですよ?

 とはいえ、その手の思い入れはどの国にもある。たとえばアメリカ人のパリかぶれ。それを表すのが今週末封切りの「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」だ。

 やたら長い題名は原題の直訳。米カンザス州の地方紙の跡取り息子が、田舎暮らしを嫌って創刊したのがパリを拠点に海外通信を満載した週刊誌だった、という設定だ。つまりは架空の雑誌の編集部が舞台の大人のためのファンタジーである。監督は「ダージリン急行」や日本を舞台にしたアニメ「犬ヶ島」などで人気のウェス・アンダーソン。まるでイキったところのない洒脱なユーモアと、センス抜群の色彩設計による映像がここでも冴える。

 見ているうちにわかるが、実はアンダーソンは単なるパリかぶれではなく、架空の雑誌の逸話を通して、なにかと窮屈になった現代の社会とメディアをやんわりと風刺している。というのもこの架空の雑誌、元ネタは明らかに「ニューヨーカー」で名物編集長だったウィリアム・ショーンに由来するエピソードが数々出てくるからだ。

 ショーンについては同誌の記者だったリリアン・ロスの「『ニューヨーカー』とわたし」(新潮社)がある。誌面にあふれた知性とウイットがどんな背景から生まれたかがよくわかる回想記だが、あいにく版元品切れ。こういう本を絶版状態にしておくのはやぼのきわみだが、ま、仕方ない。代わりに長年の「ニューヨーカー」ファンだった常盤新平著「私の『ニューヨーカー』グラフィティ」(幻戯書房 2750円)を挙げよう。著者の没後まもなく出た風趣ある小著。常盤さんの訥弁が耳元によみがえる一冊である。 <生井英考>

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    春闘「下請け泣かせ42社リスト」大企業の賃上げは中小企業の犠牲で成り立つ

    春闘「下請け泣かせ42社リスト」大企業の賃上げは中小企業の犠牲で成り立つ

  2. 2
    2006年東大阪集団リンチ殺人事件 小林竜司死刑囚は「面会室ではにこやかで、話し方も丁寧だった」

    2006年東大阪集団リンチ殺人事件 小林竜司死刑囚は「面会室ではにこやかで、話し方も丁寧だった」

  3. 3
    犬かコヨーテか? テキサス州で保護された動物 DNA検査の結果で分かった正体

    犬かコヨーテか? テキサス州で保護された動物 DNA検査の結果で分かった正体

  4. 4
    米国で最も人気のある犬 31年首位「ラブラドルレトリバー」2位転落、王座を奪ったのは

    米国で最も人気のある犬 31年首位「ラブラドルレトリバー」2位転落、王座を奪ったのは

  5. 5
    大谷翔平WBCで旋風も品行方正すぎて惹かれない?清原和博のような“やんちゃ”は時代錯誤か

    大谷翔平WBCで旋風も品行方正すぎて惹かれない?清原和博のような“やんちゃ”は時代錯誤か

  1. 6
    日テレ「さんま御殿」NHKアナ大量出演は“青田買い”か? 夢の競演に隠された別の思惑

    日テレ「さんま御殿」NHKアナ大量出演は“青田買い”か? 夢の競演に隠された別の思惑

  2. 7
    三浦瑠麗氏の“セレブアピール”なぜ嫌われた? 夫逮捕でもオシャレに決める強心臓

    三浦瑠麗氏の“セレブアピール”なぜ嫌われた? 夫逮捕でもオシャレに決める強心臓

  3. 8
    ドルガバを着て顔に野心が透ける三浦瑠麗さんのこと、あたし好きだったんだな

    ドルガバを着て顔に野心が透ける三浦瑠麗さんのこと、あたし好きだったんだな

  4. 9
    株価大幅下落の今がチャンス!家計を助ける3月確定株主優待「食品・外食」など33銘柄

    株価大幅下落の今がチャンス!家計を助ける3月確定株主優待「食品・外食」など33銘柄

  5. 10
    「なにわ男子」主演映画の動員数で高橋恭平が道枝駿佑を逆転か メンバーの切磋琢磨で生じる懸念

    「なにわ男子」主演映画の動員数で高橋恭平が道枝駿佑を逆転か メンバーの切磋琢磨で生じる懸念