梶よう子(作家)

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10月×日 近頃、あれやこれやで疲弊している。感染症の蔓延、生活困窮、自死増加。民草の声も届かず、政治も暮らしも人の心もぐだぐだ。なんて、生きづらい世の中だ! といったところで自助努力を強いられる。なので、岸見一郎著「人生は苦である、でも死んではいけない」(講談社 946円)を再読した。

 ともかく、死んではいけないと教えてくれる。仕事終わりのビールに幸せを感じられるのは、今をちゃんと生きている証だと信じよう。そもそも、楽な人生などありはしないのだ。やれやれ。

10月×日 雑誌連載と、11月刊行の文庫「お茶壺道中」、菱川師宣の生涯を描いた「吾妻おもかげ」の作業が重なり疲労困憊。ようやく手を離れたので、早速、野田サトル著「ゴールデンカムイ」(集英社 594円)の最新27巻を楽しむ。明治末期の北海道を舞台に莫大な金塊を巡る壮絶、抱腹絶倒のサバイバル・アクションコミック。日露戦争の帰還兵とアイヌの少女のコンビ、鬼の爺さん土方歳三をはじめ、奇人、変人、変態が跋扈する。すでに物語は終盤。早く続きをーと絶叫。

10月×日 これまた明治時代。日本の鉄道は明治5年(1872)、新橋―横浜間が始まりだ。その区間の一部で、汽車は海上に築かれた堤の上を走っていた。浮世絵にも描かれているが、昨年開業した高輪ゲートウェイ駅の駅前開発地で、その遺構が往時の姿を留めたまま発見された。期待を胸に見学会へと足を運ぶ。ヘルメットを着け、築堤を眺めた。想像より大きく圧倒される。長く延びる美しい石垣と無数の波除け杭。先人たちの技術の粋に涙腺が決壊した。予定ではすべて破壊の方向だったが、研究者や関係者の尽力で国史跡となった。けれど、指定されたのは発見された800メートルのうちの6分の1。残念無念だ。近代遺産への理解が進まないのが歯痒い。 

 書棚から斉藤進著「鉄道考古学事始」(新泉社 1650円)を手に取る。平成4年(1992)から10年に亘る新橋停車場の発掘調査が易しく書かれている。来年は鉄道開業から150年。高輪築堤の出現が花を添えた。

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