「スターリン」オレーク・V・フレヴニューク著 石井規衛訳

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 本書の副題は「独裁者の新たなる伝記」。チャプリンは「独裁者」で風船の地球儀と戯れる独裁者=ヒトラーの姿を辛辣に描いたが、もしスターリンを主人公にしたらどのような場面を描いたのだろうか。

 ヒトラーはその激越な演説で有名だが、スターリンはほとんど演説をしなかった。しかし、どちらも強制収容所を用いて数多くの人間の命を奪った。ヒトラーに関しては多くの評伝が書かれているが、スターリンについてはソ連が崩壊するまで多くの資料が閉ざされていたため、良質なものはほとんどなかった。本書は、新公開の文書館史資料に基づき執筆された初の本格的評伝である。

 グルジア(現ジョージア)の靴修理職人の三男として生まれたスターリンは神学校に進むも、教条主義的な雰囲気に反発して社会民主主義運動に参加。ロシア革命においてはレーニンを首班とするソビエト政権において書記長のポストを得る。しかし、レーニンが死の際にスターリンを書記長から解任するよう求めた「遺書」を残した。これは中堅以上の党員には知らされていたが、スターリンにとって重い桎梏(しっこく)となる。

 その後、宿敵トロツキーを追放し独裁化の道を進んでいくスターリンだが、それとともに周囲の人間に対する疑心暗鬼が増大していく。自分に敵対する者には容赦なく罪を着せ、処刑した。それが全国規模で展開されたのが1937~38年の「大テロル」だ。この時期、160万人が逮捕され70万人が銃殺された。また30年代からスターリンが死ぬ53年までに収容所に送られた強制労働者の総計は2870万人に及ぶとされている。

 本書において著者は、スターリンの体制は、社会を分断し、階級出自や社会的役割を理由にして社会主義に敵対的とみなされた一部を抑圧するという2つの戦略に依拠してきたことを明らかにした。問題は、スターリンの死後もこの戦略は引き継がれたことだ。

 最後に著者は問う。

「21世紀のロシアが実際、20世紀の過ちをくり返す危機に陥ることはありうるのだろうか?」と。 <狸>

(白水社 5060円)

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