「サイバースパイが日本を破壊する」井上久男氏

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 4月16日、菅首相とバイデン大統領による首脳会談では、共同声明の中に52年ぶりに台湾問題が盛り込まれた。これは、台湾有事が想定されるほど中国と台湾が緊張関係にあること、米中対立激化の時代に突入したこと、そして今後「経済安全保障(以下、経済安保)」という概念が急速に広がることを示している。

「経済安保とは、ネット空間や医療、金融、貿易、投資などあらゆる経済活動の中に“軍事的な作戦”が仕掛けられていることを想定し、これに対応して国を守ることです。アメリカと中国という2大強国の対立は、ささいなことでも安全保障と絡むリスクを生む。そして、同盟国アメリカと地理的に近く巨大市場を持つ中国の間で、日本や日本企業が板挟みになるのも必定です」

 本書では、中国が展開している“武器を使わない戦争”の実態を明らかにしながら、米中対立激化の中で日本と日本企業が存続していくための術を考えていく。

「中国は今、公然と『非軍事領域における軍事活動』を強化しています。例えば、スリランカでは債務を盾に中国に港湾を奪われてしまいました。中国によるインドへの牽制、インド洋への進出を考慮したとき、スリランカは地政学的に非常に重要な要塞となります。そこで中国はスリランカにふんだんに融資を行い、これが返せなくなるや港に租借権を設定したわけです」

 これは「債務の罠」と呼ばれている。また中国は、台湾のパイナップルやオーストラリアのワインなど、主要産品を狙い撃ちして輸入停止し、経済に打撃を与える戦略も取っている。仮想敵国や地政学的に重要な国に対し、陸海空の戦力を使わずに首根っこを押さえる。2000年前の孫子の兵法「戦わずして勝つ」が今も生きていると本書。

「中国への警戒が必要な背景には、軍事技術が民間に転用されていた時代とは異なり、民間の技術が軍事に用いられる時代に突入している点が挙げられます。つまり、他国から入手した民間技術が、すぐに軍事力向上につながることを意味しています」

 本書では、サイバー産業スパイについても詳述。三菱電機が2度のサイバー攻撃を受け、防衛省の情報などが盗まれた事例も紹介している。このときサイバー攻撃を行ったのは、いずれも中国人民解放軍の指揮下にあるハッカー集団だったと、専門家の間では目されているそうだ。

「自社では超最先端技術を扱っているわけではない、と油断するのは間違いです。削る、曲げるなど効率的な製造ノウハウが狙われることもあり得ます。そしてテレワークが増えた今、セキュリティーのわずかな緩みを突かれる可能性はどこにでもあるのです」

 日本は、こうした産業スパイ対策に無防備過ぎであると著者は嘆く。機能強化が求められるのが公安調査庁などのインテリジェンス機関だが、日本ではいまだに戦前の“特高警察”のようなイメージを持つ人が少なくない。

「米中対立が激化し中国が勢力を増す状況下で、インテリジェンス機関の強化を拒むのはあまりにも時代遅れです。中国の“武器を使わない戦争”が日本にどのような影響をもたらすのか。まずは多くの人がその意味を知るべきです」

 米中ビジネスのデカップリング(分離)を行う、人権を侵害した労働力による原材料をサプライチェーンから締め出す、そして日本もサイバー攻撃能力を保有するなど、手の内に準備しておくべき策も詳述する本書。あらゆる企業で経済安保を意識した対策が急務だ。

(ビジネス社 1650円)

▽いのうえ・ひさお 1964年生まれ。九州大学卒業。NECを経て92年朝日新聞社に入社。経済部で自動車や電機産業などを担当。2004年からフリーの経済ジャーナリストとなり、トヨタをはじめグローバル製造業の取材を行う。「自動車会社が消える日」「日産VS.ゴーン」「トヨタ愚直なる人づくり」など著書多数。

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