吉川英梨(作家)

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6月×日 先日、書店でとある本に目が釘付けになった。海野弘氏解説・監修の「366日 物語のある絵画」(パイ インターナショナル 2860円)という本だ。神話から宗教画、古典作品の物語絵が366枚紹介されている。

 15歳の高校受験当時を思い出さずにはいられなかった。テスト開始時間に合わせ生活を朝型に切り替えた私は、眠気覚ましに小説を読んでいた。すると親から「受験生なのに小説を読む暇があるのか」と叱られた。私は小学生のときから小説を書いていたが受験当時は創作時間を作れなかった。私は「作る」ことからも「読む」ことからも、「物語」を禁じられてしまったのだ。

 そんな私が眠気覚ましに選んだのは、百科事典だった。口絵に掲載された数々の西洋画は血生臭く、エロス漂う神話絵画もある。一枚の絵に喜怒哀楽が詰まった絵画はドラマティックに私を目覚めさせてくれた。

 不惑をとうに超えた私が本屋で出会った「366日 物語のある絵画」。タイトルを見て、中3の私は「物語」を求めていたのだと痛感した。

 本書は366枚の絵画だけでなく、物語絵の変遷も伝える。かつては物語にインスピレーションを受け大量に描かれたが、19世紀末には下火になり、第一次世界大戦が幕を引いたと筆者は書いている。現代は漫画やアニメ、実写があるので、わざわざ絵画にする必要がない。だが文芸誌や児童文学で挿絵として「物語絵」は続いているのではないかと個人的に思う。

 私は「十三階」シリーズという女スパイ小説を文芸誌「小説推理」で再び夏から連載するが、毎月担当イラストレーターの挿絵を見るたび、白紙の上のただの線が織りなす豊かな物語性に圧倒される。5月末に発売された「感染捜査」の前日譚が「小説宝石」に掲載されているが、この挿絵も額縁に飾りたくなった。

 文芸誌の休刊やWEB化が増えてきたいま、いずれ最後の「物語絵」も消えてしまうのだろうか。いまや一般文芸小説で挿絵は見ないが、あってもいいし、残ってほしい。

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