「『人権』がわからない政治家たち」小林節氏

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「時事問題という、その時々に流れてきた球を、その都度ポンポンと向きを変えて打ち返してきただけ。でも、私の人格と学識が揺れずに一本の柱として立っているから、一冊にまとまるんですね。改めて並べ直すと現代の論点について書き下ろしたような本になりました」

 自由と民主主義と人権を守る、という基本的な観点は不動。そう信じている憲法学者にとって、8年半の長きにわたった安倍晋三政権が、本来、権力者を縛るためのものである憲法を国民大衆を縛るものに変えようとする暴挙を、絶対に許すことはできなかった。

 本書は、2017年から続く日刊ゲンダイの連載コラム「ここがおかしい 小林節が斬る!」から主要原稿を抜粋し、加筆・修正してまとめたもの。今の菅義偉政権にも継承されている“安倍壊憲”への怒りと提言が詰まっている。

 文章は、相手をぶった斬るというより、緻密で冷静な筆致だ。常に憲法論と法律論をベースに論じているため、ブレがなく、説得力がある。

 今の政治の問題を、野党の支持者のみならず、真の「保守」を自任する人にこそ、気づき、考えて欲しいと訴える。

「本来の保守は、過去・現在と続いてきている自分たちの生活が、未来の子孫の代でもより良きものとして持続することを望んでいる立場のはずです。ところが、政権中枢は『今だけ、自分だけ、お金だけ』と刹那的に権力を私物化し、大衆の幸福に対する責任感を失っている。『モリ・カケ・桜・東北新社』のように、特定のファミリーがこの国を食いつぶすような現象はやめさせなければいけません」

 本書では、疑惑の当事者たちが言う「記憶にない」は自白と同じ、とバッサリ。故意がなければ有罪にならないという理屈で、官僚たちは「記憶喪失になる」と指摘している。

 著者は若手の頃から現実政治の課題について自らの考えを述べてきた。学者は大学内で学問すべし、という日本の風潮に強い抵抗を感じてきたという。

「私は、抜き身の血刀を提げて戦場を走ってきました。講堂の中できれいに剣道の形を取っている研究者や、教科書のようなことを言っていても、『じゃあ、おまえの刀は切れるのか』と問いたくなるような研究者が多いじゃないですか、と言いたい。憲法学者が政治を論じなくてどうするんですか。表現の自由(憲法21条)を教えている学者が、表現の自由を避けるのはおかしいでしょう」

 いわゆる「六法」の中で民法や刑法などは身近に感じても、憲法は少し高尚でとっつきにくく思う人も多いだろう。しかし、本書の第2章のテーマは、「憲法問題」はわれわれの日常生活のどこにでもある、だ。

 その中の「大相撲の女人禁制は憲法違反ではないか」「『セクハラ罪はない』という大きな勘違い」などの項目を読むと、もっと憲法を知れば、政治的な事象だけでなく、庶民の日常においても、幸福の追求に憲法は活用できると気づかされるだろう。

「人が人を侮辱すれば刑法の侮辱罪になり、人が人を村八分にすれば、民法の不法行為ですが、これらは、個性的な人権を他者が否定することであり、全部、憲法問題なんですよ。男女問題なら民法、犯罪は刑法、労働問題は労働法とタテ割りになっていますが、あらゆる法律は憲法の傘の下で動いているのです。憲法はもっと身近なんだということに気づいてほしくて、さまざまな場面で憲法を語っていますが、まだまだ道半ばですね」

 最近は顧問を務める法人の弁護士業務も忙しいが、語り続けることに一種の使命感を感じている。

「多くのメディアが死んだようにおとなしくなってしまった今、後で歴史を振り返ったら、筋を通した少数派がいたということは大事なことだよね。ゲンダイもね」

(講談社 1430円)

▽こばやし・せつ 慶応大名誉教授。弁護士、法学博士。1949年、東京生まれ。都立新宿高、慶大法学部卒。ハーバード大ロースクール客員研究員、慶大教授、北京大招聘教授、ハーバード大ケネディ・スクール・フェローを務めた。オトゥゲンテンゲル大(モンゴル)名誉博士。

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